最新記事

欧州

ドイツを分断する難民の大波

受け入れはもう限界だと悲鳴が上がり メルケルが昨秋ぶち上げた寛大な政策は後退を迫られている

2016年2月24日(水)17時00分
ミレン・ギッダ

メルケル危うし デュッセルドルフのカーニバルには、難民の波にのまれるメルケルを風刺した山車まで登場した Sascha Ateinbach/GETTY IMAGES

 ドイツの首都ベルリンには分裂の代償を物語る歴史的遺物がある。市の東西を隔てていた壁の一部だ。89年にこの壁が崩壊したとき、ベルリン市民はもう二度とこの街を引き裂いてはならないと誓った。

 残念ながら今、新たな問題がベルリンを、そしてドイツ全土を引き裂いている。人口350万人のベルリンに昨年1年間に流入した難民は8万人。ミヒャエル・ミューラー市長は昨年11月、「大量の難民に圧倒されている」と悲鳴を上げた。

 難民支援団体の調べでは、ベルリンで難民申請した人の85%は学校、体育館、閉鎖された空港の建物などに収容されている。それだけでは足らず、ホームレスのシェルターまで利用されるありさまだ。

 それでもベルリンはましなほうだ。南部のバイエルン州とバーデン・ビュルテンベルク州は連邦政府の指示で難民申請者の28%を受け入れている。両州でとりわけアンゲラ・メルケル首相に難民政策の転換を迫る声が大きいのも無理はない。

「もう限界だ」と、メルケル率いるキリスト教民主同盟(CDU)のフィリップ・レングスフェルト議員は言う。「このままではヨーロッパ中の難民や移民がドイツに集まってくる。何とか手を打たねば」

 昨年9月、メルケルが難民の寛大な受け入れを宣言すると、難民はドイツに殺到。12月末までに110万人に達した。今年1月の流入は9万1671人で、おそらくは悪天候のため昨年12月よりは減ったが、昨年の同時期と比べるとはるかに多い。

 今や難民の多くがむきだしの敵意に迎えられている。昨年11月にパリで起きた同時多発テロ、そしてドイツ各地の都市で大みそかに起きた多数の性的暴行と窃盗事件。いずれも警察は難民絡みの犯行と発表した。

 大みそかに襲撃事件が最も多く報告されたケルンはノルトライン・ウェストファーレン州の都市だ。連邦政府が昨年、同州に割り当てた難民受け入れ枠は21%。ドイツの州では最多だ。

【参考記事】ケルンの集団性的暴行で激震に見舞われるドイツ 揺れる難民受け入れ政策

 こうしたなか、ドイツ政界では受け入れ制限の議論が高まり、メルケルの難民政策がドイツを壊滅させるといった悲観論まで飛び出している。先月末に発表された世論調査によると、有権者の40%が寛大な受け入れはもうごめんだと、メルケルの退陣を求めている。

 メルケルは苦渋の選択を迫られている。東ドイツ育ちで、抑圧された人々を助けたいという思いは人一倍強い。多くのドイツ人と同様、自国の過去の過ちを償いたいという思いもある。それでもケルンの事件後、政策転換の圧力は強まる一方だ。

【参考記事】タイム誌「今年の人」に選ばれたメルケル独首相の挑戦

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中