最新記事

イデオロギー

韓国リベラルは北朝鮮の手先か

北朝鮮へのビラ散布を規制する左派政党の法案に「偏狭」の批判。だが、過度の単純化は現実を見誤らせる

2014年12月24日(水)19時31分
スティーブン・デニー(韓国政治学者)

渦中の風船 市民団体の北朝鮮向けのビラ散布は役に立たないという指摘もある Kim Hong-Ji-Reuters

 米陸軍法務官として韓国に駐在し、米下院外交委員会の対北朝鮮政策顧問を務めたジョシュア・スタントンは先月、韓国の左派を容赦なく批判した。彼が主宰する政治ブログ「ワン・フリー・コリア」に掲載された記事のタイトルは「韓国の偏狭な左派──全体主義者に奉仕する独裁主義者」だ。

 スタントンいわく、韓国の左派はリベラリズムの理念や、他国のリベラル派が尊ぶ「寛容や平等や非暴力、表現の自由やフリーラブ」の精神を捨てた。欧米のリベラル派と比べて「韓国の左派は弱い立場の人々を守ろうという情熱に欠けている」。ここで言う「弱い立場の人々」とは、脱北者のことだ。

「左派は脱北者を見下して罵倒する......北朝鮮の立腹を招くより、脱北者を死なせたほうがましだと考える......全体主義政府をなだめるため、韓国国民が平和的手段で意見表明する権利、北朝鮮国民が情報を手にする自由を犠牲にしようとする」

 スタントンの怒りに火を付けたのは、韓国の最大野党で左派系の新政治民主連合が先頃提出した南北交流協力法の修正案だ。採択されれば、政府は活動家らによる北朝鮮へのビラの散布を「規制」する権限を手にする。

 北朝鮮に向けて風船で飛ばされるビラの内容は、朝鮮戦争の「正しい」歴史や南北の経済格差についての情報など、北の政権にとって刺激的なものばかり。スタントンが引用する韓国の通信社、聯合ニュースによれば、法案には「『風船を含む移動物を持つ不特定の個人』は飛ばす前に担当大臣の許可を得る必要がある」と明記されている。

 同時に法案は、「『南北の交流協力を損なう正当な懸念』がある物品の北朝鮮への送付を、韓国統一大臣が許可することを禁じる」ともいう。
脱北者である朴相学(パク・サンハク)率いる活動団体、自由北朝鮮運動連合が行うビラ散布が、北朝鮮の怒りを買ったのは確かだ。北朝鮮政府は報復をちらつかせ、韓国政府は北朝鮮をなだめるためか、活動家に自粛を求めている。

 とはいえウォール・ストリート・ジャーナルが指摘するように、「市民団体によるビラ散布を停止させる法的根拠はないと、韓国政府は表明している」。だからこそ、その根拠を与える修正法案にスタントンは怒った。

 ここで理解しておくべきなのは、南北関係と北朝鮮政策をめぐって、主流の左派がどんな考えをしているかだ。彼らの態度は、単純に言えばこうなる。北朝鮮政府を不必要に挑発して怒らせるな。北との対話や和解がさらに困難に、悪くすれば不可能になるだけだ──。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中