最新記事

朝鮮半島

アメリカの「忍耐」が北朝鮮を暴走させた

金正恩の核実験強行と周辺国の現状から見えてくる最悪のシナリオとは

2013年3月6日(水)14時37分
ジム・ウォルシュ(マサチューセッツ工科大学の安全保障専門家)

3回目の核実験を祝して首都・平壌の金日成広場に集まった軍人たち KCNA-Reuters

 北朝鮮が3度目の核実験を行った。近々、さらなる「サプライズ」をやる可能性もある。だが、いちいち驚いては相手の思う壺だ。

 もちろん困ったことだが、北朝鮮が核武装の野望を抱いているのは周知の事実だし、あの国の挑発的な行動も今に始まった話ではない。

 確かに世界は、2つの点で以前よりも危険な場所になった。第1に、北朝鮮は本気で核弾頭搭載可能な長距離ミサイルを開発するつもりだ。成功する保証はないが、彼らは今後も実験を繰り返すだろう。

 第2に、北朝鮮だけでなく周辺の中国と韓国、日本でも指導者が交代したばかりだ。こういう時期には予測不能な事態が起きやすい。経験の浅い指導者が挑発に過剰反応すれば、危険な悪循環に陥る恐れがある。

 若き指導者・金正恩(キム・ジョンウン)はどう出るつもりか。就任当初は、彼を改革者になぞらえる希望的観測もあった。だが実際のところは分からない。そもそも正確な情報が少な過ぎる。

 金正恩はかつて、ミサイル発射実験の失敗を素直に公表した。ディズニーのキャラクターみたいな着ぐるみが登場するショーを楽しむ姿も伝えられた。今までにはなかったことだ。しかし相も変わらず好戦的な声明を発し、ミサイルの発射や核実験を強行してきたのも事実だ。

 今度の核実験で、金正恩はこう豪語できる。確かに韓国の経済力は北朝鮮より上だし、軍隊の装備も良さそうだが、核武装では北朝鮮が先行しているのだと。軍部の忠誠を勝ち得るには効果的だろう。

中国政府も手詰まり

 では、アメリカは今回の挑発にどう対応すべきなのか。アメリカ政府は過去5年間、北朝鮮が非核化に動くまでは交渉の席に着かないという「戦略的忍耐」政策を続けてきた。しかし、これは失敗に終わり、挑発と制裁の悪循環しか生まなかった。

 それでもアメリカの保守派は、さらなる制裁強化を求めている。だが、いくら制裁を重ねても大した変化は期待できまい。制裁で北朝鮮が崩壊することもない。そんなことは中国が望まないからだ。

 中国は今回の核実験を止めようとしたが、北朝鮮は強行した。中国政府は反発を示したが、慎重な態度に終始している。下手に動けば北朝鮮がさらなる挑発に走りかねないからだ。中国政府も北朝鮮には手を焼き、手詰まり感を募らせているようだ。

 手詰まりは国際社会も同じこと。北朝鮮が韓国に大砲を向けている以上、予防的な先制攻撃という選択肢はあり得ない。

 一方で、北朝鮮が韓国に先制攻撃を仕掛けることも考えにくい。韓国軍のほうが優秀で強力だから、先制攻撃は自殺行為だ。ただし北にも、韓国側に風穴を開けるくらいの力はある。それが分かっているから、韓国も自分からは手を出せない。

 それでも誰かが計算違いをし、敵対的行動の連鎖が始まってしまえば戦争は起きる。そして今の状況なら、計算違いの起きる可能性は十分にある。

From GlobalPost.com特約

[2013年2月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中