最新記事

アラブ世界

独裁者たちのSNS活用法

2012年5月24日(木)14時52分
ジェニファー・クーンズ

 アラブ諸国の当局者は現在、ネット上の発言を理由とした逮捕・罰金・投獄に法的裏付けを与えるため、緊急事態法やテロリズム対策法、出版法といった既存の法律の手直しを進めている。「インターネットとSNSが広がり始めた頃は、出版法の規制対象は主流のメディアだけだったが、今は違う」と、ニューヨークの人権擁護団体フリーダム・ハウスのコートニー・ラドシュは言う。

当局と人々の戦いは続く

 例えばUAE当局は3月、民主活動家のサレハ・アル・ドゥファリを逮捕した。ドバイのシリア領事館前で許可なくデモを行ったシリア人亡命者を国外退去処分にした政府の決定をツイッターで批判したためだ。

「ドゥファリは争いを誘発し、国の統一と社会の平和を妨げる思想を広めた容疑で逮捕された」と、ドバイの警察当局は声明で述べた。

この逮捕は人々をおじけづかせようとする政府の作戦だが、同時に政府も人々の異議申し立てを恐れていると、ジャーナリスト保護委員会のアブデル・ダイエムは指摘する。「いま起きている出来事は政治的に極めて重要であり、極めて広範囲に影響を与える。だからチュニジアやシリアの出来事が湾岸諸国で大きな意味を持つ」

「もちろん(アラブ諸国は)それぞれ別の国家だが、SNSはアラブ世界全体で利用されている」と、アブデル・ダイエムは話を続ける。「だからジャーナリストやブロガーや一般市民は、新しい表現手段の可能性を追求し、政府が批判をどこまで許すか試している」

 一方、政府も人々の反応を試していると、ツイッターのフォロワーが10万人以上いるUAEの人気政治評論家スルタン・アル・カセミは言う。「湾岸諸国ではSNSがコミュニケーションと批判の手段として定着し始めたばかりだ。SNSが広まれば、表明される意見は当然増える。必ずしも当局の意にそぐわない意見も出てくるだろう」

 法律を冒して意見を表明するジャーナリストやブロガー、一般市民は、弁護士不足の問題とも戦わなくてはならない。「アラブ諸国の弁護士にとって、SNSは未体験ゾーン。多くの国では、この分野の訓練と経験が不足している」と、フリーダム・ハウスのラドシュは言う。

「テレビが登場した当初も、番組関係者が取り締まりの対象になるケースは今より少なかった。テレビがまだ新しいメディアで、当局の対応が追い付かなかったからだ。いずれにせよ政府と市民の戦いは今後も続いていく」

 それでも今度の戦いでは、インターネットとSNSの特性が負の連鎖を断ち切る役割を果たす可能性がある。「SNSはユーザーや関係者の数が従来のメディアよりずっと多い」と、ラドシュは話を続ける。

「既存のメディアは少数の人々の所有物で、わずかな人々に仕事を与えているだけだった。しかしSNSでは、社会の広範な人々がそれを使うことで利益を得ている。だから(テレビより)ずっと多くの人々が、SNSの自由を守るために立ち上がるかもしれない」

From GlobalPost.com

[2012年4月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中