最新記事

エネルギー

韓国でもお寒い原発の実態

エネルギー 海外では大統領自ら売り込み攻勢をかけながら、国内の相次ぐトラブルは見て見ぬふりのまま

2012年4月10日(火)14時57分
スティーブン・ボロウィック
(韓国ハンギョレ新聞副編集長)

募る不安 2月に外部電源喪失事故の隠蔽があった古里原発 Reuters

 韓国の古都、慶州市は朝鮮戦争で破壊を免れた数少ない場所だ。古代の新羅王国の歴史的建造物が今も残り、街全体が「壁のない博物館」として人気の観光地になっている。これからも観光の街であり続けたいと市民は願っている。原発で有名になるなんてごめんだ、と。

 ところが慶州市内の月城原子力発電所はトラブル続きで、このままではフクシマの二の舞いになるのではないかと市民は危惧している。韓国政府が見て見ぬふりだから、なおさらだ。

 韓国の原子力政策は矛盾している。中東や中国やインドに原子力技術を輸出することには熱心だが、国内の原発はお粗末で、国民は原発計画に反対している。福島第一原発の惨事がそうした反原発の機運に拍車を掛けた。

 慶州は韓国の原子力のハブであると同時に、反原発運動の震源地にもなっている。月城原発1号機は今年1月、冷却材ポンプの温度センサーのトラブルで運転を自動停止した。2年以上に及ぶ改修工事を終えて再稼働してからわずか半年しかたっていなかった。11月で設計寿命の30年を迎えるが、原発側は10年間の延長を求めている。月城原発は現在、韓国の電力の約5%を賄っている。国内の電力消費量の3割は原発から生み出されたものだ。
 
 韓国の代表的な環境保護団体「韓国環境運動連合」が出した声明によれば、「月城原発1号機は機械や部品の不備による放射能漏れや冷却水漏れや運転停止など、過去30年間に51回のトラブルを起こしている」。

 市内で建設中の放射性廃棄物処理場も工期遅延を繰り返し、完成後の安全性が疑問視されている。「フクシマやチェルノブイリのような事故が起きるのではないかと不安だ」と、建設中止を訴える地元の市民団体の李相洪(イ・サンホン)は言う。

 慶州が低レベル放射性廃棄物処理場の建設受け入れに名乗りを上げたのは05年。住民投票の末に誘致合戦を制し、受け入れ都市に政府から支給される約3億ドルを手に入れた。当時は住民の圧倒的多数が受け入れに賛成したが、福島第一の事故を受けて風向きが変わった。

増大する需要を追い風に

 周辺住民の健康不安も理由の1つだ。韓国では現在21基の原発が稼働している。7基が建設中で、30年までにさらに11基が建設される予定だ。「政府の調査によれば、原発から5キロ圏内では女性の甲状腺癌発症率が通常の2・5倍だった」と市民団体の李は言う。

 昨年3月、福島が危機に陥っていた頃、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は中東で韓国企業による原子炉建設の交渉をしていた。09年にはアラブ首長国連邦(UAE)の原子炉4基の建設を、アメリカやフランスなどの「大御所」を抑えて、韓国のコンソーシアムが受注した。

 今後20年間に世界の原子炉の多くが寿命を迎え、後継となる原子炉の需要が大幅に増えるだろう。中国とインドでもエネルギーの需要増大に対応すべく、新原子炉の需要が高まるはずだ。昨年7月、韓国とインドは原子力協力協定に署名。インドは今後20年間で原子炉40基を建設し、50年には電力の4分の1を原子力発電で賄う構えだ。

 トルコの黒海沿岸部に原子炉4基を建設する総額200億ドル規模の計画についても、両国はほぼ1年ぶりに交渉を再開することで合意したという。韓国製原発の拡散は今後も続きそうだ。

 3月末には首都ソウルで核安全保障サミットが開かれる。主要議題は「核テロ防止」。原発周辺の住民にしてみれば、安全確保のほうがずっと重要だろう。

From the-diplomat.com

[2012年3月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ミストラルAI、17億ユーロ調達 ASMLが筆頭

ビジネス

日銀の国債買い入れ、10月に10―25年ゾーンを減

ワールド

米移民当局の日本人拘束を確認、適切に対応=林官房長

ビジネス

アングロ・アメリカン、加テック・リソーシズと経営統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 3
    エコー写真を見て「医師は困惑していた」...中絶を拒否した母親、医師の予想を超えた出産を語る
  • 4
    石破首相が退陣表明、後継の「ダークホース」は超意…
  • 5
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 6
    ドイツAfD候補者6人が急死...州選挙直前の相次ぐ死に…
  • 7
    もはやアメリカは「内戦」状態...トランプ政権とデモ…
  • 8
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 9
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 10
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中