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米中関係

ゲーツ国防長官を拒んだ中国のウラ事情

韓国の哨戒艦沈没事件で北朝鮮制裁に反対する背景には相反する感情の葛藤が

2010年6月9日(水)15時12分
ラビ・ソマイヤ

ゲーツ米国防長官は中国との軍事関係を修復するため、6月3日からシンガポールを訪れた後に北京訪問を計画していた。だが中国に「都合の良い時期ではない」と断られた。鼻であしらわれた形だ。米中の軍事交流は、米政府が台湾への武器売却を決めて以来冷え切ったままだが、中国側にはより複雑な事情があるのかもしれない。

 外交専門誌フォーリン・ポリシーは、米当局者の話として「中国共産党内部に軋轢が生まれている」と伝えた。「アメリカにより強硬に挑むべきとする軍を中心にした勢力と、2国間関係の改善をまじめに望む勢力があるが、強硬派が勢いを増している」という。

 韓国の哨戒艦沈没事件によって米中関係はさらにややこしくなった。国連による北朝鮮への制裁に中国が反対の立場を取る一方で、アメリカは制裁を求める韓国への支持を表明した。

 そこへ北朝鮮側がクセ球を投げた。「金正日の非公式報道官」と呼ばれる朝米平和センターの金明哲所長が4日、中国海軍の調査によると韓国の哨戒艦を沈没させたのはアメリカの機雷だった可能性があると、香港のアジア・タイムズ紙への寄稿で示唆したのだ。「これが対北朝鮮制裁決議に中国が加わりたがらない理由の1つかもしれない」と金は言う。

北朝鮮には軽蔑心でいっぱい

 アジア協会米中関係センターのオービル・シェル所長は、中国がこの情報操作に絡んだとは考えにくいが、中国は北朝鮮に関して極めて慎重に動かざるを得ないと言う。「今回の件で中国の外交官と話をすると、北朝鮮への軽蔑心が透けて見える」と言う。「中国にとっては、頭のおかしな叔父が屋根裏に住んでいるようなものだ」

 中国は北朝鮮と話ができる唯一の国だからこそ、北朝鮮に強く当たりたがらない。北朝鮮を全面的に支持しているとはみられたくないが、かといって衝突も避けたい──シェルはそう分析する。

 シェルは米中の軍事関係は修復されると確信しつつも、それには時間がかかるとみている。「台湾への武器供与の後では、中国政府がすぐに前向きになるのは難しいかもしれない。どの政府にも国家主義者と世界主義者がいるが、中国内部のドラマは見えにくい」

 ドラマがハッピーエンドを迎えればいいと望んでいるのは、ゲーツ国防長官だけではないだろう。

[2010年6月16日号掲載]

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