最新記事

アジア

アジア歴訪クリントンの「本音」

日本の普天間基地や韓国哨戒艦の沈没事件が主な議題になると思われているが、クリントンのアジア歴訪の重点はあくまで中国。そしてできることは限られている

2010年5月21日(金)18時26分
ジョシュ・ローギン

課題山積 クリントンはアジアの難題に解決の道筋をつけられるのか Kevin Lamarque-Reuters

 アメリカのヒラリー・クリントンが米国務長官に就任してから5回目のアジア歴訪に出発した。今回の訪問の重点は中国。そして各国との話し合いは、3月に発生した韓国の哨戒艦沈没事件が北朝鮮の魚雷攻撃によるものと断定されたことが中心になるはずだ。

 大統領報道官のロバート・ギブスは、北朝鮮の行動を「強く糾弾する」との声明を発表。北朝鮮が「この明らかな休戦協定違反でさらに孤立を深める」と語ったが、今後厳しい措置を取るかどうかについては明言を避けた。

 このあいまいな表現は、クリントンが事件についてすべての関係国の考えをまとめることがいかに大変かを物語っている。それに、沈没事件以外にも2国間の問題から地域内の案件まで、話し合わなければならない課題も山積している。各国の注目すべき課題を見てみよう。

日本:日本の共同通信は、日米両政府が5月28日に「普天間基地を沖縄県内に移転する」と発表すると報じている。日本政府が見直すと言って来た06年の日米合意と結局は大きく変わらない内容だ。ワシントンのインサイダー向け会報誌ネルソン・レポートは5月19日、日本メディアの記事が「話のすべてではない」と伝えている。

 日本の鳩山由紀夫首相とオバマ政権の関係が冷え込んでいることは公然の秘密。当初、鳩山は06年の日米合意の見直しにこれほど危険があるとは思っていなかった。クリントンの訪日中、鳩山は06年の日米合意に先祖がえりするための「雑巾がけ」に励む必要がある。

 沈没事件によって、日米の安全保障同盟の重要性に改めて気付き始めた日本人は、クリントンと鳩山が協調するイメージを打ち出すことを願っている。だが同時に日本は北朝鮮に対し、オバマ政権が求める以上に強硬な態度を取っている。国連安全保障理事会に強力な行動を求める韓国にも同調したが、クリントンが中韓との話し合い以前にアメリカ側の明確な立場を日本に説明することはないだろう。

中国:クリントンの日韓での滞在日数はそれぞれ1日だけだが、中国には5日間滞在する。公式の訪問理由は第2回米中戦略・経済対話への出席。だがこの会議自体はそれほど目新しいものではない。

 経済についてはアメリカによる人民元の切り上げ要求と、中国の国家戦略である「自主創新(イノベーション)」が中心となるだろう。だが中国がクリントンの訪問中に何らかの動きをする可能性は低い。戦略分野は米中の軍事協力といった地味な問題ではなく、北朝鮮問題が中心になるだろう。

 中国側は沈没事件に関わりたくない。哀悼の意を伝える声明を何週間も出さず、韓国の捜査報告にも駐ソウル大使の出席を断って大使館のナンバー2を出席させた。

 5月に行われた北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の中国訪問は失敗し、金は日程を短縮して帰国したと報じられている。中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が、北朝鮮の国内問題に中国が介入する意欲を示したのに立腹したからだという。

 クリントンは中国に、最低でも国連決議に反対しないよう求める必要がある。安保理決議に中国が参加しなければ十分だ。だがどんな形であれ、クリントンが中国の行動を管理することは難しいだろう。まずアメリカ自身がどう行動するかもまだ決まっていないのだから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者69人に、子ども21人犠牲 

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中