白人っぽ過ぎ?「カレン」が人気急落
Bye Bye, Karen
Olga Ignatova-iStock
<あまりにありふれていて白人の特権意識を連想させるため赤ちゃんの名付け候補リストから外される運命に>
アメリカには今、「カレン」という名を持つ人が110万7736人いる(筆者の運営するウェブサイト「ネームべリー」調べ)。でも、110万7737人目が生まれることはなさそうだ。
カレンは「キャサリン」やロシア語の「エカテリーナ」に通じ、元は「純粋さ」を意味する素敵な女性名。なのに今は、みんなから毛嫌いされている。一部のメディアやSNSで、「差別意識・特権意識丸出しの困った白人中年女性」の代名詞として使われ始めたからだ。
こうなると、良識ある親は娘をカレンと名付けない。息子をアドルフと呼ばないのと同じだ。ただしアドルフ(20世紀の世界に戦争と破壊をもたらした独裁者の名)と違って、カレンという名の極悪人がいたわけではない。
映画や小説で、傲慢で恥知らずな人物の名として使われたこともない。ちなみに「グイド」という男子名は1983年の映画『卒業白書』で使われて以来、マッチョで鼻持ちならない男の代名詞となり、すっかり廃れてしまった。
2018年にアメリカで生まれた赤ちゃんで、グイドと名付けられた子は一人もいない(アドルフも皆無)。ただし『卒業白書』公開の前年には17人のグイドがいた。スーザン(女)もディック(男)も17人だった。
ディックの全盛期は1934年で、1131人の男児がこの名をもらった。当時もこの語は男性器を指す俗語として用いられていたが、その名を息子に与えることをためらう親は、まだいなかった。
しかし1960年代後半になると、ディックには「間抜け」や「嫌な奴」というニュアンスが加わった。以後、わが子をディックと名付ける親はどんどん減っていった。
中には、不遇の時期を耐えて生き残り、復活する名前もある。いい例が「ブリジット」。今ではみんな忘れているだろうが、かつてのアメリカでは貧しいアイルランド移民に対する差別意識が強く、彼らの子で「メイド」として働くしかない娘たちの代名詞がブリジットだった。
そんな名前を背負って生きるのはつらい。だから多くのブリジットが、自分の名を捨てた。筆者の祖母もそうだ。祖母ブリジットは1911年に「バーサ」と改名。しかし第1次大戦が始まると、敵(ドイツ軍)の使う巨大な砲弾が「ディッケ・べルタ(太っちょバーサ)」と呼ばれるようになった。祖母は再び改名し、今度は「べアトリス」を名乗った。
今いる大勢のカレンも、かつての祖母と同じ選択をするかもしれない。今年21歳になるカレン(2000人以上いる)の多くが改名の権利を行使して、ケリーやオリビアになるかもしれない。一昨年に生まれた娘をカレンと名付けた500人弱の親たちも、今頃はきっと激しい後悔の念に駆られている。