最新記事

米司法

検察官と寝た裁判官のトンデモ死刑判決

テキサス州で殺人事件の裁判を担当した裁判官と検察官は愛人同士だったことが判明。当の死刑囚は最高裁に再審を求めたが──

2010年4月26日(月)18時18分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

権威失墜 最高裁はなぜ死刑囚の上訴をたった1行で棄却したのか Molly Riley-Reuters

 米最高裁は4月19日、チャールズ・ディーン・フッド(40)の上訴をたった1行の、署名すらない文書をもって棄却した。フッドは、90年に2人を殺害したとして有罪判決を受けたテキサス州の死刑囚。死刑の確定後しばらく経って、フッドの裁判を担当した裁判官と検察官が数年に渡る不倫関係にあったことが発覚した。ともに既婚者である2人は、フッドの弁護人に対してさえ不倫の事実を否定していた。

 裁判官と検察官が宣誓の下で、不倫関係を認めるに至ったのは08年のこと。しかし昨年9月、テキサス州刑事控訴裁はフッドからの上訴を「この件を持ち出すには遅すぎた」という理由で棄却した。秘密の関係が明るみに出る以前に、フッド側がどうやって利益相反の問題を訴えることができたのかについては説明されなかった。

 フッドは今年2月、陪審員への説示が適切でなかったという理由でテキサス州控訴裁での新たな量刑審問を認められている。しかし、検察側は再び死刑を求める方針を明らかにしている。いずれにしても、フッドの判決をやり直してもこの裁判の根本的な問題を解決することにはならない。

 つまり、不倫関係にある検察官と裁判官が行なう裁判を、公平と思う人がどこにいるのかということだ。これは、裁判所が言及するのを避け続けている問題でもある。

大金もセックスも判決への影響力は同じ

 昨年6月、最高裁は「ケーパートン対マッシー」の裁判で非常に重要な判決を下した。この裁判では、ウェストバージニア州最高裁の裁判官が、裁判官選挙の資金として300万ドルの献金を受けた相手が被告となった上訴審を辞退すべきだったかどうかが争われた。

 裁判官の意見が5対4と二分される中、多数意見を出したアンソニー・ケネディ判事は、本件における利害対立は「度を超えており」、当該裁判官が裁判を辞退しなかったことは「適正手続きの保障」という合衆国憲法上の権利を損なったとした。

 最高裁に上訴したフッドが問いかけているのはこういうことだ----裁判官は大金と同様、素晴らしいセックスによっても公正な判断を失う可能性があるのではないか?

 フッド側は、裁判官と検察官との「長期に渡る深い性的関係と、その後の親密な友人関係により、彼女(裁判官)が彼(検察官)の職業的・個人的利益をくみ取り、それを自分自身の利益と考えるようになった」と申し立てた。さらに、裁判官に対する金銭的援助が表沙汰になっていたケーパートン裁判とは違い、テキサス州の裁判官は不倫関係を隠していたのだからもっと問題があると主張した。

 ケーパートン裁判がミステリー作家ジョン・グリシャムの小説になるほど衝撃だったとしたら、フッド裁判は映画化されてもいいくらい強烈な話だ。裁判官と検察官が秘密の愛人関係にあるとき、公正な司法制度が保たれるわけがない。そのことを認めるのに、フッドが有罪か無罪か、死刑が有効かどうかを問題にする必要はない。

 テキサス州法は、裁判官の「公平性が合理的にみて疑問視される場合」もしくは「係争対象や当事者に対して個人的な先入観や偏見を持っている場合」には、当該裁判から外れるよう定めている(問題の裁判官は後に、自分は当該裁判を外れるべきだったと認めている)。

殺人犯には1行の価値しかないのか

 フッド裁判の真相は実にひどい。だからこそ最高裁への上訴は、権威ある法曹倫理家30人のほか、元FBI(米連邦捜査局)長官のウィリアム・セッションズやテキサス州の知事や司法長官を務めたマーク・ホワイトなど著名な裁判官や検察官が支持している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

インタビュー:日本株で首位狙う、米ジェフリーズと事

ワールド

米政府職員削減、連邦地裁が一時差し止め命令 労組の

ビジネス

日銀、利上げは「非常に緩やかに」実施を=IMF高官

ワールド

トランプ氏、ベネズエラでのCIA秘密作戦巡る報道を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中