最新記事
SDGs

泡で、船で、AIで...... 海洋プラスチックごみ回収の最新イノベーターたち

2024年4月8日(月)18時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

スケールアップした3号機

スケールアップした3号機の海洋用の装置「システム03」 ©The Ocean Cleanup

一方、海洋用の装置は1号機と2号機の実証実験を経て、昨夏、3号機「システム03」が稼働を開始した。船2隻でフェンスを引っ張りながら海のプラごみを回収する。設置場所は、世界最大のごみ集積地帯の「太平洋ごみベルト」だ。

海洋では、1.5㎝以上のプラごみを捕捉する。ほとんどのごみは水面から深さ2m内にあるというが、第3号は水深4mまでをカバーする。最大効率でサッカー場1面ほどを 5 秒で清掃できる。この装置は海洋生物への配慮の点でも優れている。フェンスに付いた回収網には出口があり、海洋生物が網の中で発見されると逃げられるようになっている。

「クリーン・ハブ」 プラごみ回収・処理をデジタル化

オーシャン・クリーンアップのように、海に流入するプラごみが集中している地域でのプラごみ回収は効率的だ。ベルリンのクリーン・ハブは、プラごみ汚染がひどい東南アジアを中心に事業を展開している。同社は、プラごみ回収のプロセスをデジタル化した。作業員たちが、プラごみを収集し、種類ごとに分け、安全に処理する(リサイクルしたり、セメント製造などの燃料として使う。それらが無理なら埋め立てる)各段階で、同社のアプリに写真をアップロードする。AIがそれらを分析し、プラごみを確実に処理できる。

同社設立(2020年)のきっかけは、サーフィンやスキーなどが趣味で数十カ国を旅した男性3人がプラごみ汚染を目の当たりにしたこと。3人は、東南アジアではごみ処理のインフラ不足により、家庭から回収されたごみがそのまま農地に捨てられて焼却されたり、家庭単位で燃やすことが頻繁に行われていると知った。

このため、同社は川でプラごみを捕捉するプロジェクトも行いつつ、プラごみ(ガラスや段ボール、アルミニウムなども)を家庭から集めて処理することに焦点を置いている。昨年初めの時点で、回収したごみは8000トンを超えたという。

現在、世界の300以上の企業が同社のクレジットを購入しており、プラスチックオフセット(プラスチック消費量を相殺)を行っている。

すでに海や川に流れているプラごみの多くを回収するには、途方もない年月を要する。とはいえ、回収活動はいま進めなくてはならない。そして、どこに住んでいても「安易にごみを捨ててはいけない」という意識が浸透することを願って止まない。
 

 

岩澤里美[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する、もう1つの『白雪姫』とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 6

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中