最新記事

日本社会

「名前覚えたからな。夜道、気をつけろ」 ゴネ得知る迷惑客がコールセンターで執拗に食い下がるワケ

2022年6月12日(日)16時40分
吉川 徹(元コールセンター従業員) *PRESIDENT Onlineからの転載

止まると毎月欠かさず電話...怒鳴り続ける「貧乏くじ」

繁忙期が終わり(※9)閑散期に入っていた。この時期は罵声を浴びせられることもない。肩の力を抜いてすごせる時期だ。そろそろ昼休みというころ、ヘッドセット(※10)を通して聞こえた呼び出し音に、キーボードのエンターキーを押して出る。

※9:12月から1月末にかけては2カ月間ずっと忙しかった。疲労が限界まで溜まり、特別手当を出してくれないものかと真剣に思った。
※10:このときに使っていたものは大きく重く、長時間使っていると頭が締めつけられるような痛みが出た。最近のものは性能はそのままで軽く小さくなっている。

「なんで今月は早いんだよ! どうなってんだよ!」

いきなり怒鳴りつけられた。何を怒っているのかわからない。お客の情報を出そうにも、怒鳴るだけでこちらの話を聞いてくれない。

「お客さまの携帯番号とお名前をおっしゃって......」
「うるせんだよ! なんで今月だけ早いんだよ! どうなってんだよ!」

怒鳴り散らしている。

「携帯番号とお名前をおっしゃっていただかない限り、なんのお話もできません」

そう繰り返すと、怒りながらも教えてくれた。

情報を呼び出せば、個人の属性や契約期間、支払い状況、これまでの応対履歴(※11)などさまざまなことがわかる。29歳の男性で、未払いで利用停止になると怒って毎月電話してきている人だった。内容もヘビー級だ。オペレーターでは解決できず、SVに交代し、それでもダメで課長を電話に出させて怒鳴りつけている。応対時間も毎回1時間を超えている。貧乏くじを引いたとわかった。

※11:お客と話した内容の記録。これを見れば、誰がいつどんな話をしたかがわかる。履歴がない人はこれまでに一度も電話してきていない人で、履歴が数ページにもわたっている人は一筋縄ではいかないたいへんな人。

だが、今はまだ利用できているはずだ。なぜ、今回に限って利用停止になる前にかけてきたのだろう。怒鳴り声を聞き流しながら調べてみると、利用停止日を記載した手紙が2日前に発送されていた。

「今、私のほうでも確認しましたが、利用停止のお手紙が届いてますよね」
「そうだよ! なんで今月は19日なんだよ! 先月までは20日だっただろう! なんで今月は早いんだよ!」

怒っている理由がわかった。利用停止日が1日早まったのだ。

システムの問題なのに...怒りの矛先はオペレーターへ

利用停止のスケジュールはコンピュータが決めている。判断基準はお客のランク(※12)だ。

※12:判断基準はお客のランク......このランクは利用停止日を決められる際の基準となるだけで、ランクによって料金が優遇されたり、サービスが違ったりするわけではない。

Aランクは、ドコモの指定した引き落とし日に口座振替やカードで支払っているお客である。Bランクは、残高不足などで引き落としができなかった場合、翌月に再度の引き落としで支払われるお客。Cランクは、支払い期限内に請求書でコンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Dランクは、支払い期限がすぎたあと、コンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Eランクは、利用停止後に支払ったお客、である。

Aランクのお客の払いが遅れて利用停止日が設定されたとしても、その日付はDやEランクのお客より10日から2週間遅い翌月の初めごろだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、中国製ブリキ鋼板の反ダンピング調査開始

ワールド

イスラエルはガザ停戦努力を回避、軍事解決は幻想=エ

ワールド

「英国を再建」、野党・労働党が選挙公約 不法移民対

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中