最新記事

映画

ピクサー史上最悪の映画はこれに決定!新作『マイ・エレメント』の出来はひどい

An Epic Fail for Pixar

2023年7月28日(金)12時10分
ダン・コイス(スレート誌エディター)
火のエレメントのエンバーと水のエレメントのウェイド

火のエレメントのエンバーと水のエレメントのウェイドの恋を観客はいまひとつ応援する気になれない DISNEY/PIXARーSLATE

<ヒット確実な要素をきっちり押さえているのに、『マイ・エレメント』が恐ろしくつまらない理由>

ピクサーも終わったな──。これまで何度この言葉を耳にしてきただろう。だが、その予言はいつも外れてきた。

思えば、最初からそうだった。CG制作会社だったピクサー・アニメーション・スタジオが、ディズニーの呼びかけ(と投資)で初の長編映画を製作することになったとき、脚本の書き直しに費やした期間は3年。「ディズニーはとんでもない会社に投資した」とささやかれたものだ。

【動画】映画『マイ・エレメント』予告編

ところが、その結果出来上がった作品『トイ・ストーリー』(1995年)は、史上初のフルCGアニメーション映画だっただけでなく、個性豊かなキャラクターと、思わずほろりとさせるストーリーで、大人にも子供にも愛される大ヒット作となった。

以来、「ピクサーも終わったな」と言われるたびに、同社は傑作を発表して私たちを驚かせてきた。だから、がっかりするほどつまらない新作『マイ・エレメント』も、魔法のような傑作が登場する前触れなのかもしれない。

だが、たとえそう考えたとしても、この作品の出来はひどい。『カーズ/クロスロード』(2017年)や『バズ・ライトイヤー』(22年)のように、親会社ディズニーに強いられて仕方なく作った続編という言い訳は通用しない。

また、やはりピーター・ソーン監督が手掛けて大コケした『アーロと少年』(15年)とも事情は異なる。『アーロと少年』はあらゆる年齢層に愛されるピクサー映画としての作品を求める期待には応えられなかったが、実に美しい子供向け映画だった。

つじつまの合わない物語

美しく独創的な物語の舞台に存在する冷酷なルール、周囲の対立を超えて愛し合う2人、現代社会と重なる問題に苦悩する主人公。『マイ・エレメント』は、典型的なピクサー映画の要素をきっちりカバーしているのに、どういうわけか恐ろしくつまらない。

水、火、土、風というエレメント(元素)が共存するエレメント・シティで、正反対のエレメントであるエンバー(火)とウェイド(水)が引かれ合う。触れ合うと蒸気が発生するカップルなのだが、なんだか小学生の恋のようで、まるでワクワクしない。

エンバーの両親は移民で、彼女は父親の期待と自分の夢との間で苦悩するが、これもいまひとつ響かない。とりわけ、22年のピクサー映画『私ときどきレッサーパンダ』が、移民一家の子供の苦悩を絶妙なセンスとユーモアと独創性で描いただけに、『マイ・エレメント』の絶望的なほど漠然とした描写は消化不良だ。

移民であるエンバーの家族は東欧なまりの英語を話し、ユダヤ系であることを示唆しているように見える。ただし、彼らはスパイスの効いた食べ物が大好きで、辛いものを食べられない水のエレメントを笑う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、5月は102.0 インフレ懸念

ワールド

イスラエル戦車、ラファ中心部に初到達 避難区域砲撃

ワールド

香港、国家安全条例で初の逮捕者 扇動の容疑で6人

ワールド

サウジ国王、公務に復帰 肺炎治療後初の閣議出席=報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏最新インタビュー

  • 3

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    TikTokやXでも拡散、テレビ局アカウントも...軍事演…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中