最新記事

映画

最初から「失敗」が決まっていたクロエ・ジャオ監督のマーベル映画『エターナルズ』

An Intergalactic Mess

2021年11月16日(火)17時53分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『エターナルズ』

「アベンジャーズ」が誕生するはるか昔から人類を見守ってきた「エターナルズ」が、地球を未曽有の危機から救うために立ち上がる MARVEL STUDIOSーSLATE

<昨年のオスカーで注目されたクロエ・ジャオ監督によるマーベル映画『エターナルズ』は、ミスマッチ感が拭えない>

マンガから抜け出してきたスーパーヒーローが世界を救う映画ばかりがヒットするここ十数年の状況を嘆かわしいと思うかどうかは別として、とても残念な事実が1つ。新進気鋭の才能ある監督にとって、その手の映画を撮ることが勲章か何かのように考えられていることだ。

いい例が、低予算のロードムービー『ノマドランド』でアカデミー作品賞と監督賞を獲得したクロエ・ジャオ。彼女には早速マーベル謹製のCG版スーパーカーのキーが授与され、宇宙の果てまで自在に駆け巡れることになったが、ルートや行き先を決めるのはマーベルだから、勝手な放浪は許されない。

いや、ジャオの手掛けた最新作『エターナルズ』が並のマーベル映画と大差ないと言うのではない。そこにはゲイの男たちもいれば聴覚障害のあるスーパーヒーローもいて、マーベル映画史上最も多様性に富むスーパーヒーロー軍団ができた。しかも、ジャオの愛する夕暮れ前の暖かい日差しあふれるシーンがたくさん登場する。

広島の原爆投下にも遭遇

しかし『アベンジャーズ』に代表されるスーパーヒーローものの系譜に照らせば、本作は最弱のレベルと言わざるを得ない。時空を超えて世界を、そして宇宙を駆け巡る物語なのに、なんだか質素なスタジオで撮影されたドラマみたいな閉塞感がある。

主役のエターナルズは、遠い昔に「セレスティアルズ」と呼ばれる宇宙神によってつくられた不死身の超人たち。何千年も前から素性を隠してこの地球上に暮らし、普通の人間として生きてきた。そして広島への原爆投下を含む人類の愚行に何度も遭遇し、そのたびに、できる限りのことをしてきた。

しかし彼らには、人間界で起きる出来事への介入は禁じられている。どうしても見逃せない人たちを救うことはできるが、愚かな人間の愚かな選択による悲惨な歴史を変えることは許されない。

しかしある日、謎の怪物種族「ディヴィアンツ」が地球に襲い掛かり、エターナルズはやむなく地球防衛に立ち上がることになった。首領格のエイジャック(サルマ・ハエック)は米サウスダコタ州の牧場で引退生活を送っていたが、意を決して各地に潜伏する仲間たちを召集した。

地球人の暮らしに最も溶け込んでいたのはセルシ(ジェンマ・チャン)だ。本作の主人公と言ってもいい存在で、昼間はロンドンの自然史博物館で働いている。彼女が持つ超能力は、どんな物質も別な物質に変えてしまう力だ。巨大な落下物に押しつぶされそうな子供を、この超能力で救うシーンが、前半に2回ある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ワールド

米下院特別委、中国軍の台湾周辺演習を非難 「意図的

ワールド

仏独英、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中