zzzzz

最新記事

日本史

「明治維新は薩長によるテロ」 『青天を衝け』で維新賛美の歴史観から脱却したNHK

2021年10月16日(土)12時40分
香原斗志(歴史評論家、音楽評論家) *PRESIDENT Onlineからの転載

しかし、岩倉は慶喜に先手を打たれたのが悔しくて、こう発言する。

「慶喜というのはエライ男や。蟄居中のワシがあっちに手紙を出し、こっちにこっそり足を運んでと、エライ思いをして討幕の密勅をひねり出したというのに、先手を打ってくるとは」。

大政奉還の前日、「討幕の密勅」が下されていたが、この秘密の勅令は、天皇の裁可を受けていない。

慶喜が朝廷に政権を返上してしまうと、武力による討幕が叶わなくなるので、その前に、一部の公卿の名を連ねてでっち上げたものなのだ。岩倉の「ひねり出した」というセリフは、そういう意味である。

戦争をしたくない慶喜と戦争をしたい西郷

王政復古の大号令が出された日に京都御所で行われた小御所会議の模様も、刺激的に描かれていた。

天皇の下に諸藩主による公議政体を設け、将軍をその最高責任者にするという趣旨で大政は奉還されたのに、その場に慶喜がいない。

そのことに土佐の山内容堂、越前の松平春嶽、尾張の徳川慶勝らが相次いで異を唱えた。

それを聞いた西郷は「こいはやっぱり、いっと戦をせんな」とつぶやく。

徳川を排除して薩長が主導する政権を築くためには、やはり戦争をするしかない、と悟ったのだ。

岩倉は「向こうが戦おうとしてへんのに、こっちが戦をしかけたんでは、道理が立たしません」と弱気だが、西郷は「戦がしたくなかちゅうなら、したくなるようにすっだけじゃ」。

ドラマでは、その後、江戸城二の丸が焼けたが、それが薩摩の放火だとの風説がある旨が語られる。

これに対し、慶喜は「これはワナだ。動いてはならぬ」と釘を刺すが、しばらくして「奸賊薩摩を打つべし、とのご老中の名を受け、庄内(藩兵)を先鋒とする兵が薩摩屋敷を砲撃」との報告を受ける。

この、いわゆる「薩摩藩邸焼き討ち事件」が、鳥羽・伏見の戦いのきっかけになるのだが、それは、いみじくも西郷が「したくなるようにすっだけじゃ」と言ったように、彼が仕組んだものだった。

江戸の町民が「薩摩御用盗」と呼んだ無頼集団を組織し、日夜、強盗や略奪、放火、殺人、強姦などの狼藉を繰り返して幕府を挑発し、是が非でも内戦に持ち込もうとしたのだ。それをドラマでは、慶喜に「ワナ」と呼ばせていた。

強引に引き起こされた内戦によって流れた血

続く第24話「パリの御一新」(8月15日放送)では、栄一の従兄の渋沢成一郎(喜作)に、「上様(慶喜)が尊王の大義に背いたことはない」と言わせている。

これは逆に言えば、でっち上げられた「討幕の密勅」や「錦の御旗」によって、「尊王の大義」を抱く慶喜を無力化し、日本人同士が血を流し合った戊辰戦争という内戦を、あえて引き起こしたということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する、もう1つの『白雪姫』とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 6

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中