最新記事

韓国映画

はるな愛「私のとっておき韓国映画5本」 演技に引き込まれ、究極の愛について考える

2021年5月3日(月)13時30分
はるな愛

見終わった後で「韓国映画はえり好みせず、全部見よう」と思ったほど良かったのが『百万長者の初恋』(2006年)。「恋愛話をだらだらと見せられるのか?」と思いそうなタイトルだが、ありきたりじゃないのが韓国映画。

想像もしない方向に行くので、すっかりだまされてしまった。そうした伏線の描き方が、韓国映画はとてもうまい。もし私がこの台本をいただいて演じてくださいと言われても、結末を知っていたら、あんな演技はできないだろう。

主人公の御曹司ジェギョンを演じるのはヒョンビン。『愛の不時着』の北朝鮮の将校役からは想像もつかないくらい表情豊かで、びっくりするほど荒くれた演技もする。

人が生きていくなかでは、人と関わって気付くことが多い。「自分はこうだ」と思い込んでいたら視野が狭くなるし、損することになる。ジェギョンと同級生ウナンの関係を見て、そんな「人生の幅」について考えさせられた。最後には、誰もが胸を裂かれる思いになるような作品だ。

美を追い求めてきたが

『ビューティー・インサイド』よりハン・ヒョジュ(左)とユ・ヨンソク(右)

『ビューティー・インサイド』よりハン・ヒョジュ(左)とユ・ヨンソク(右) © EVERETT COLLECTION/AFLO

5作目は、究極の愛について考えさせられた『ビューティー・インサイド』(15年)。毎朝目覚めると、年齢も性別も国籍も違う人間になってしまう男性の恋物語で、目から入る情報の大きさというものをあらためて実感し、衝撃を受けた。こういう映画がもっと話題にならないといけないし、これを見た人は今ある差別問題などについても深く考えてほしい。

「人はみんな一緒」と言うが、肌の色、髪や目の色、身長や顔立ち、人柄の全てが違う。みんな一緒に見えるのは血液だけ。この映画からは、人の血液や内臓を愛せるか? と問われているような気がした。

愛は苦しいものだってよく言う。苦しくて、しんどくて、切なくて、重くて......と嫌な表現ばかりだが、最後に「愛(いと)おしい」って一言が入ると思わせてくれた。愛おしいの一言は、ほかの何事にも代えられないぐらい大事。そのとき愛が、愛している側の人生になるんだと思った。

私は女の子になりたい、美しくなりたいと、表面的なことをずっと追い求めてきた。美容整形をしたり、性別まで変えたりして生きてきたが、この映画にもっと早く出会っていたら、どんなに楽に生きられたか。手術もしなかったかもしれない。後悔しているわけではなく、手術したら全ての悩みが消えると思っていたが、そんなことはなかったから。生きていれば、悩みはどんどん出てくる。

私は映画監督もしていて、トランスジェンダーの先輩の姿を残せるような作品を作ったが、こういう映画を撮りたいな、ちょっと悔しいなって思った。私が普段、講演会などで話しているのはこういうことなのかな、って。

(構成・大橋希)


newsweek20210503_thumb.jpg

はるな愛(Ai Haruna)


タレント、歌手。
2008年に「エアあやや」でブレイクし、以後テレビなどで活躍。100回以上の訪韓経験がある韓国通で、著書に『はるな愛のわくわくソウル』など。13年から韓国観光名誉広報大使を務める

(※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では夏までに日本公開される最新映画、注目のドラマも取り上げています)

202104_kiji_k-dramamovie_campaignbanner.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中