最新記事

BOOKS

社名変更でスベったフォルクスワーゲンに読ませたいジョーク本

2021年4月6日(火)20時20分
森田優介(本誌記者)

目立つのは「中国人ジョーク」の増加

本書の構成は「コロナ禍における不思議な日本人」に始まり、中国やアメリカ、韓国、北朝鮮との関係を下敷きにしたジョークへと続く。ほかにも日本の働き方や高齢社会、治安の良さ、東京オリンピック、カルロス・ゴーンや「こんまり」まで登場する。

過去の「ジョーク集」と比べ、目立つのは「中国人ジョーク」の増加だ。それだけ世界における中国の存在感がここ数年――良くも悪くも――高まったのだと言える。


 日本人が言った。
「なんでもかんでも否定から入るのは良くないよ」
 中国人が答えた。
「いや、そんなことはない」

国民性や民族性をネタにしたジョークは「エスニックジョーク」と呼ばれる。世界中で人気のあるジョークの種類の1つだ。差別ではなく、ユーモアとして楽しむものだが、時に線引きが難しい。

とはいえ、国民性だけでなく、宗教やセックスなどを題材にした他のジョークにも一定の難しさはある。ジョークを愛した作家、開高健も「ジョークはTPOをわきまえてやらなきゃいけない」と言っていた。

ユーモアや笑いは大切だが、無神経ではいけないということだ。

その意味で、TPOをわきまえ損ねたのがフォルクスワーゲンだったのかもしれない。

EV化という時代の潮流を反映しており、企業イメージとしても悪くない。「Volkswagen」を「Voltswagen」に変えるなんて、洒落ているじゃないか。面白い。やろう。

たぶん、そんな会話が社内の会議で交わされたのだろう。

だが報道によれば、エイプリルフールに先立つ3月29日、「誤って」社名変更のプレスリリースが掲載された。翌30日、プレスリリースは各メディアに送付され、同社のツイッター公式アカウントも社名変更を投稿した。いずれにも「エイプリルフール」という記載はなかった。

その後になって、フォルクスワーゲンは「社名変更はない」「エイプリルフールのつもりだった」と釈明したのである。

だが同社は2015年の排ガス不正問題という、ジョークどころか「笑えない嘘」からの信頼回復の途上にあった。そのため「ボルツワーゲン」ネタは、スベるどころか、企業の信頼性すら傷つけかねない結果となった――というのが、この騒動のオチ。

ドタバタでジョークを台無しにした関係者には、ぜひ「ジョーク集」を読んで勉強してもらいたい。

世界の日本人ジョーク集 令和編
 早坂 隆 著
 中公新書ラクレ

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、不公正な結果なら受け入れず=共和上院議

ワールド

米大統領補佐官、民間人被害最小限に イスラエル首相

ワールド

ベゾス氏のブルーオリジン、有人7回目の宇宙旅行に成

ビジネス

中国、最優遇貸出金利据え置き 市場予想通り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中