最新記事

世界が尊敬する日本人100人

遠藤謙、義足開発で起業し、目下の目標は「東京パラ金メダル」【世界が尊敬する日本人】

2019年4月26日(金)16時30分
大橋 希(本誌記者)

COURTESY OF XIBORG

<「義足のランナーが健常者より速く走れる日が来るんじゃないか」――そう感じて「Xiborg(サイボーグ)」を起業。全米チャンピオンとの契約も勝ち取った遠藤が語る「大企業とは違う僕たちの役割」>

201904300507cover-200.jpg

※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。

◇ ◇ ◇

「今までにない感覚を味わった。もしかしたら義足のランナーが健常者より速く走れる日が来るんじゃないかって」──義足の金メダリスト、オスカー・ピストリウス(南アフリカ)が走る姿を間近で見たときのことを、義足エンジニアの遠藤謙(写真左)は振り返る。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)でロボット義足を研究していた遠藤が、「障害者は健常者を超えられない」という思い込みを覆され、競技用義足への興味が湧いた瞬間だった。

帰国後もソニーコンピュータサイエンス研究所で研究を続けつつ、2014年には元陸上400メートルハードル日本代表の為末大らと共に義足開発企業「Xiborg(サイボーグ)」を起業。春田純、佐藤圭太、池田樹生各選手のほか、2015年、2016 年の全米選手権チャンピオンのジャリッド・ウォレス選手(写真右)と共同開発契約を結ぶ。

ウォレスは契約直後の2017年7月、世界パラ陸上競技選手権の200メートルで金メダル、100メートルで銅メダルを獲得した。

競技用義足ではアイスランドのオズール社、ドイツのオットーボック社が圧倒的シェアを誇り、世界のトップ選手がそれ以外を選ぶのは異例だ。だがウォレスは遠藤の熱意と技術力に未来を見たのだろう。3月22日には自身のインスタグラムで「僕を信頼し、世界を変える技術革新に共に取り組んでくれてありがとう」と遠藤の名を挙げた。

ウォレスの実績もあって、今ではドイツやレバノン、マルタ、インドなどの選手からXiborg社に引き合いがあるという。

遠藤が大切にするのは選手の意見を細かく聞き、各人に合った義足を開発すること。もう1つは「何だこれ⁈」という驚きの瞬間の演出。義足を作るだけでなく、例えば、義足のランナーが街中で走る「渋谷シティゲーム」や、乙武洋匡の義足プロジェクトを仕掛けていくことだ。

「ある技術が市場に出て定着し、社会のインフラになるところまでが技術革新。この流れの中で大企業とは違う僕たちの役割は、人々の先入観を覆すものや技術を最初に提示することだと思っている。それが議論を生み、人間の進化にもつながる」

MIT時代にインドの義足開発に関わった経験から、途上国にも目を向ける。いま始めようとしているのはラオスの義足ランナーの支援だ。

目下の目標は、2020年東京パラリンピックでの金メダル。どんな「驚き」を演出してくれるか、世界が楽しみに待っている。

Ken Endo
遠藤 謙
●義足エンジニア

<2019年4月30日/5月7日号掲載>

※この記事は「世界が尊敬する日本人100人」特集より。詳しくは本誌をご覧ください。

「世界が尊敬する日本人100人:2019」より
羽生結弦が「最も偉大な男子フィギュア選手」である理由
夢破れて31歳で日本を出た男が、中国でカリスマ教師になった:笈川幸司
中国人が蒼井そらを愛しているのはセクシー女優だから──だけではない
世界屈指のプロゲーマー梅原大吾「人生にリセットボタンはない」の転機【世界が尊敬する日本人】

※過去の「世界が尊敬する日本人」特集で取り上げた人の一部は、本ウェブサイトのニューストピックス「世界が尊敬する日本人」に掲載しています。

20240528issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎

ワールド

英裁判所、アサンジ被告の不服申し立て認める 米への

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏の逮捕状請求 ガザ戦犯容疑 ハ

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中