最新記事
心理学

「ネガティブ思考」が変わる「コーピング理論」とは何か?...「レジリエンス」を高める2つのステップ

2024年5月2日(木)10時00分
ニコール・ルペラ(心理学博士)
レジリエンス

WOKANDAPIX-pixabay

<人生を形づくっていた「定番の失敗パターン」を変えるために知っておきたい、「適切なコーピング」と「不適切なコーピング」について>

家族、友人、恋人、同僚...。相手が変わっても人間関係で同じトラブルが繰り返されるのはなぜなのか。うまくいかない理由は子ども時代のトラウマによって生じた「パターン」にあった...。

自分にすでにある力を見つけ、自分で自分を育てるワークによって人生を変えられる。全米で80万部突破の大ベストセラー『ホリスティック心理学 自分の行き詰まりパターンを特定し、トラウマを解消して人生を変える「ワーク」』(パンローリング)の第3章「トラウマの新理論とは?」より一部抜粋。

◇ ◇ ◇


1984年、ストレスと感情を研究していた2人の革新的な心理学者──カリフォルニア大学バークレー校の教授だった故リチャード・ラザルスと、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授だったスーザン・フォークマン──が「コーピング理論」を提唱した。

2人はコーピングを「その人の資源(リソース)を超える外的・内的な要求に対処するための、絶えず変化する認知行動上の努力」と定義していた。

つまり、コーピングとは、ストレスが生み出す心身の強い不安に対処するために学習された戦略のことだ。

ラザルスとフォークマンは、「適切なコーピング」と「不適切なコーピング」について説明している。適切なコーピングとは、真正面から問題に取り組む、ネガティブな思考を変えるなど、安心感を取り戻すために取る行動をいう。

ここでの鍵になるのは、積極的になること。適切なコーピングには努力と、意識的に不快感を認識することが求められるのだ。ただし、適切なコーピングは、手本を示されたり、使い方を教わったりしない限り、なかなか使えないだろう。

不適切なコーピングは、たいてい親を通して学習される。不適切なコーピングを行えば、不快感から一瞬気をまぎらわしたり救われたりするし(たとえば飲酒によって。私が姉の結婚式でそうだったように)、感情的な反応を避けたりもできる(解離しているときの私がそうだったように)。

でも、こうして苦痛をやわらげているうちに、本当の自分からさらに遠ざかってしまう。人がある環境にどう対処するかは、その環境よりむしろ、ストレスに対してどんなコーピングを条件づけされているかに関係している。

たとえば、2人の人間(ソニアとミシェル)がストレスフルで成果主義のまったく同じ仕事をしているとしよう。

ソニアは、ストレスを適切なコーピングで解消している。定期的にジムに通ってストレスを発散したり、親友に電話して支えてもらったりしているのだ。ところが、同じストレスと闘っているミシェルは、お酒で意識をもうろうとさせ、現実逃避をしている。

その瞬間は気分がよくなっても、翌朝目覚めたときには頭がぼんやりして、うつろでみじめな気分になっている。ストレスも恥の意識もいっそうふくらんで、不適切なコーピングによる悪循環が続いてしまう。

私はクリニックで、不適切なコーピングを数多く目にしてきた。最もよく見かけるのは、次のようなものだ。


・他人の機嫌を取ること 相手の要求を満たせば、ストレスは(一時的に)消える。

・怒り/激怒 感情を他人にぶちまければ、ストレスは解消される。

・解離 ストレスフルな出来事の間は、「身体を離れて」いるから、トラウマを「体験」しなくてすむ。性的な面では、あまり興味のない相手とセックスしてしまうことも、解離の一つに数えられる。あるいは、パートナーを性的に満足させるために尽くして、自分自身の喜びには気づかない、注意を向けていないというケースもある。

こうしたコーピングを行うと、過去のトラウマを繰り返したり追体験したりせずにすみ、目の前の苦しみを先送りできる。ただし、自分の身体的、感情的、精神的な望みや欲求を十分に満たす助けにはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中