転職者の「情報持ち出し」をどう防ぐ? 中小企業ならではの情報漏洩リスクは?...弁護士が解説
最も重要な平時からの対応
上記のとおり、法的観点から企業秘密を守る方法はいくつかありますが、「情報」という見えないものの持ち出しは、損害賠償などを請求する側にとって、立証が容易ではないことが多く、また、その損害の立証も難しいことがあります。
したがって、事後的な救済は難しいケースが多く、やはり平時からの対策が必要になります。
■1. 情報の適切な管理
まず、平時からの対策としては、まず情報の適切な管理が重要です。
「わが社の社員に限ってそんなことはない」と思われる方も多いですが、残念ながら人を雇用する以上は情報漏洩のリスクは常に存在します。退職の段階では、特に情報漏洩のリスクが高まるということを理解しておく必要があります。
当然、重要な企業秘密にあたるような情報は、企業にとっても重要であり、ずっと金庫にしまっておくということはできず、「情報を利用する」という必要性があります。
ただ、これまで述べてきたような給与情報や取引先情報、自社のノウハウといった情報などの漏洩リスクもあるため、「情報の重要性」と「情報の利用の必要性」の両方を十分に考慮しながら情報の管理を行いましょう。
たとえば、情報の重要性はあるものの、さほど高くなく、利用の必要性が高い場合には、あまりコストをかけず、管理することが考えられます。
一方、情報の重要性が極めて高い場合には、情報利用の必要性が高くとも、一部の社員でしか見ることができないようにパスワードを設定するなどして保管しておくことが考えられます。
■2. 情報管理に関する教育
また、情報管理に関する教育を徹底しておくことも重要です。
情報漏洩は、自社の競争力を削いでしまうだけでなく、手土産転職を行った社員に対しては、損害賠償請求や退職金の不支給・減額などがされることをしっかりと理解してもらうことが重要でしょう。
情報漏洩のリスクは、中小企業にとって容赦ない脅威となりますが、そのリスクが発生する可能性をあらかじめ減らしておくことは可能です。手土産転職にまつわるリスクを理解し、情報漏洩リスクを防ぐための対策を講じていきましょう。
[執筆者]
堀田陽平
石川県出身弁護士
2020年9月まで、経産省産業人材政策室で、兼業・副業、テレワーク等の柔軟な働き方の推進、フリーランス活躍、HRテクノロジーの普及、日本型雇用慣行の変革(人材版伊藤レポート)等の働き方に関する政策立案に従事。
【情報発信等】
日経COMEMOキーオピニオンリーダーとして働き方に関する知見を発信。著書「Q&A 企業における多様な働き方と人事の法務」(新日本法規出版)
2024年11月5日/12日号(10月29日発売)は「米大統領選と日本経済」特集。トランプvsハリスの結果で日本の金利・為替・景気はここまで変わる[PLUS]日本政治と迷走の経済政策
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