最新記事
BOOKS

24時間戦っていた電通マンが明かす「接待の実態」「浪費生活の末の窮地」

2024年2月18日(日)17時35分
印南敦史(作家、書評家)

昔も今も広告宣伝担当の役員や宣伝部の部長クラスには、少なくとも月に1回のゴルフ接待(たいていはハイヤーでの送り迎えとお土産つき)が行われているそうだ。

それはともかく結婚して2年後に長男を授かった著者は30歳をすぎた頃、35年のローンを組んで都心近くに新築マンションを購入する。ローンの支払いには余裕があり、電通の給料であれば、ローンも計画を前倒しして返済できる状況だったようだ。やはり電通に勤めれば、お金の心配をする必要はなさそうである。


 だが、私は電通マンとしての遊興に慣れすぎてしまっていた。
 会社の交際費を使った飲み食いだけにとどまらず、同僚や知人・友人との飲食のため、クレジットカードを何枚も作り、時に消費者金融から借りてまで、カネを注ぎ込んだ。
 3年ずつの間隔を空けて次男と三男が生まれ、家族は5人になった。それでも毎夜の浪費は止まらなかった。40代になったころ、カードローンは自転車操業状態になった。ボーナス時に借金の全額をいったん返済し、その翌日にそれ以上のカネを再び借りたことも一度や二度ではない。(129〜130ページより)

読み終えた後、叔父のことを思い出すことになった

『闇金ウシジマくん』に登場する「カウカウファイナンス」を思い出さずにいられないが、これは著者に限ったエピソードではないようにも思える。つまり、電通の環境がもたらした弊害だったのではないかと感じずにはいられないのだ。

そして、そういった無責任な推測を裏づけるかのように、著者は最終的に窮地に立たされる。詳しい記述は控えておくが、結末は予想を超えたものであると同時に、「電通マンなら十分にあり得る話かもしれないな」と思えるものでもあった。

それはあまりに悲しくもあるのだが、だからこそ私は本書を読み終えた後、冒頭で触れた叔父のことをまた思い出すことにもなったのだった。

著者と同じ体験をしたという意味ではないが、叔父の結末もまた悲しいものだったからだ。周囲から軽く扱われていたことを気に病んでいたに違いない彼は、最終的に病に倒れ、自らの死を誰にも告げないようにと家族に言い残してから世を去ったのである(ちなみにそれは叔父の話であり、もちろん著者は健在)。そのため私も、ずいぶんあとになってからそのことを知った。

果たして彼もまた、華やかに見える電通マンだったからこそ多くの誤解を抱えたまま逝ったのだろうか? それは考えすぎだろうか?

真実は分からないが、できればもっと、仕事についていろいろな話を聞いておきたかったなと、今でも感じることがある。

『電通マンぼろぼろ日記』
電通マンぼろぼろ日記
 福永耕太郎 著
 三五館シンシャ

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

【話題の記事】
路上売春に行く私を、彼氏は笑顔で送り出してくれ、帰ればセックスしてくれるから「私はそれで幸せ」。なぜ彼女は...
「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言
1件40円、すべて「自己責任」のメーター検針員をクビになった60歳男性

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中