最新記事
分析

中国経済の「失敗」は、習近平の「赤い進歩主義」が招いた必然の結果だった

ISSUES 2024: CHINESE ECONOMY

2023年12月23日(土)17時53分
イェンイェン・アン(米ジョンズ・ホプキンズ大学教授〔政治経済学〕)

231226P44_IS_P44-46_02.jpg

中国経済の現実は習の誤りを証明している SHI TANG/GETTY IMAGES

当初、中国の市場改革は農村重視の姿勢を打ち出し、貧しい農民に多大な恩恵をもたらしたが、その後の江沢民と胡錦濤の時代になると、都市重視に舵を切った。外国からの投資の急増に伴い、輸出主導の製造業はかつてない利益を享受した。

一方、農村は膨大な余剰労働力を都市に供給し、人件費を低く抑える役割を担った。2000年代には土地と不動産が成長のエンジンとして浮上したが、その結果として富の極端な偏在が進み、中国版の「悪徳資本家」を生み出す一方、大多数の国民は家を買うのも困難になった。

成功の根拠が問題の原因

習の課題は古い市場改革モデルの行きすぎを修正し、新モデルに移行することだった。そのために反腐敗運動を開始し、共同富裕論を唱えて公平な経済成長を強調した。

19世紀末から20世紀前半のアメリカが金ぴか時代から社会・政治の革新を目指す「進歩主義時代」に移行したように、習の中国は「赤い進歩主義時代」に突入したのだ。かつてのアメリカと同じ種類の問題に、中国はトップダウンの手法と共産党流の大衆扇動で対処しようとしている。

習はそこに個人への極端な権力集中と統制強化、イデオロギー支配を付け加えた。経済では公的部門重視に回帰し、野心をあらわにした外交を推し進め、ゼロコロナ政策を強制した。ゼロコロナは現在の経済的停滞を引き起こした唯一の原因ではないが、20年以上にわたり蓄積されてきた経済的不均衡と政治的緊張を悪化させたのは確かだ。

金ぴか時代から正しい教訓を引き出せば、学べることは多い。重要なのは単純に「成功」や「失敗」と決め付けるのではなく、善悪さまざまな結果を正しく認識することだ。エコノミストの経済発展論は、GDPの伸びを進歩と同一視する傾向がある。さらに「成功」の理由を少数の単純な要素に求め、同じ手法を世界の他の場所にも「コピー」できると考えがちだ。

冷戦の終結によってアメリカは究極の勝利を手にし、揺るぎない超大国という地位を確立した。アメリカ国内では、自由市場があらゆる問題への最善の解決策を提供するという熱い信念が「新自由主義」の名の下に広まった。

だが、新自由主義への信頼は08年に失墜する。規制緩和と米金融機関の長年にわたる無謀なリスクテイクが世界金融危機を引き起こし、ウォールストリート(大手金融機関や大企業)は救済されたが、メインストリート(一般社会)は痛手を負った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ短距離ミサイルを複数発発射=韓国軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中