最新記事
電気自動車

「気候変動」対策で、ブルーカラー労働者は置き去りに? 米自動車大手ストから見える「真実」とは

Should Autoworkers Fear Electric Cars?

2023年10月6日(金)19時15分
ニティシュ・パーワ(スレート誌ライター)
全米自動車労組のデモに参加したバイデン米大統領

現職大統領が初めてピケ現場を訪れ、賃上げ要求を支持すると表明した(9月26日、ミシガン州ベルビル) Evelyn Hockstein-Reuters

<ストで求められているのは賃上げや労働時間の改善だけではない。工場労働者たちが恐れるのはEVシフトによる失業だ>

ゼネラル・モーターズ(GM)など自動車大手(ビッグスリー)に対する全米自動車労組(UAW)のストライキが拡大している。

当初は中西部の3工場だけだったのが、今やネバダ州からテネシー州、フロリダ州まで全米38カ所に広がり、1万8000人以上が抗議のピケ隊に加わっている。

9月26日には、ミシガン州ベルビルにあるGM部品流通センター前のピケに、ジョー・バイデン米大統領が姿を見せた。現職の大統領がストライキの現場に応援に駆け付けるのは、これが初めてだ。

バイデンは拡声器を片手に、「皆さんには、大幅な昇給や福利厚生を受ける資格がある」と呼びかけ、「この国をつくったのは大手金融機関ではなく中間層だ。そして中間層をつくったのは組合だ」と語って喝采を浴びた。

バイデンの労組サポートは、大手自動車メーカーにとって大きな圧力となったが、今回のストに別の意味で注目を集めることになった。

バイデン政権が強力に推し進める気候変動対策、とりわけ電気自動車(EV)の普及策や化石燃料から再生可能エネルギーへの供給シフトに、工場労働者たちが影響を与えることが分かってきたのだ。

実際、UAWは賃金や労働時間だけでなく、ガソリン車からEVへのシフトにも懸念を抱いている。

その理由の1つとしてよく挙げられるのが、EVはガソリン車やハイブリッド車よりも組み立て工程に必要な労働者が少ないというものだ(これには異論もある)。また、EVの組立工場やバッテリー製造施設への補助金や投資は、組合を嫌う共和党優勢の州が獲得することが多い。

このため、社会全体のエネルギーシフトのために仕事を失うかもしれないと、組合労働者たちが恐れるのは無理もない。今回のUAWの要求の中に、工場が閉鎖された場合の雇用保護や退職手当の引き上げ、一時的労働者の使用制限が含まれるはこのためだ。

テスラに組合員はゼロ

EVへのシフトには、当初から雇用への影響がちらついていた。2009年の大型景気対策に盛り込まれたEVやクリーンエネルギー関連ベンチャーへの補助金は、交付に雇用関連の条件が付けられていなかった。その最大の受給者であるテスラは、組合労働者を1人も雇っていない。

09年の大不況のとき、自動車業界は公的資金により救済されたが、UAWは賃金と労働者数で譲歩を迫られた。現在活況を呈するEV市場を牽引する工場は、「圧倒的に組合化されていない」と、元UAW組合員であるジャーナリストのダイアン・フィーリーは書いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中