最新記事

日本社会

日本の郊外にあふれる「タダ同然の住宅地」 無責任な開発が生んだ「限界分譲地」問題とは

2022年8月15日(月)16時30分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

この富里市の分譲地に限らず、この時代に販売された分譲地は、いったんは完売しているのが常である。よほど特殊な事情でもない限り完売する。北海道の原野であろうとも。

各エンドユーザーの手に渡った区画が、その後の土地ブームの収束と地価下落で流動性を失った。家屋は建たず、活用されずに放置されているのだ。

空き区画には、小さな看板が立てられているところもある。「○○様所有地」と、所有者の姓と会社名が記載されている。

これは、遠方に住む土地所有者から委託を受けて、定期的に土地の草刈り・清掃業務を請け負う地元の管理会社のものだ。管理会社にはその土地の仲介業務も兼務するところもある。

草刈り業者の立て看板

地元の草刈り業者の立て看板。千葉県北東部の限界分譲地でしばしば見られるもので、遠方在住の土地所有者に代わって区画の草刈り業務を受託している。筆者提供

先に紹介した新聞広告をもう一度見てみよう。見学バスの集合場所に総武線の西船橋駅が指定されている。こうした投機型分譲地の購入者は、ごくわずかな居住目的の住民を除き、その多くが東京や神奈川、埼玉などの関東全域の都市部在住者であった。

自分で足を運んで草を刈るのは負担が重すぎるということで、地元の管理会社に委託して土地の管理を長年続けている。

売りたくても、売れない

使いもしない土地の維持管理を続けるのか。無用ではないだろうか。草も刈らずに放置すると、近隣住民からのクレームがあったり、ときに不法投棄者のターゲットにされたりするリスクもある。

土地をうかつに放置できず、売れる見込みもないまま管理料を負担し続けているのが実情なのだ。

物件広告を見ると、千葉県北東部では今なお、膨大な数に及ぶ未利用分譲地の売地情報が掲載されている。しかし売り出し価格は実勢相場よりも高額で、数年にわたって買い手も付かず掲載され続けている物件も少なくない。

たしかに分譲当初の販売価格と比べれば安価だ。所有者としては精いっぱいの妥協をしているつもりなのであろう。だが今では、交通不便な僻地の旧分譲地。地元の相場観ではあまりに非現実的な価格である。

この分譲地のある区画には、すでにその看板は撤去されてしまったが、以前は所有者の自作と思われる売地の看板が立てられていた。

そこに記載された価格は44坪で20万円。広告記載の分譲価格は大卒初任給が5万円程度だった1972年当時で約200万円なので、額面だけでも10分の1まで下がっている。貨幣価値の違いを考えれば、それ以上の暴落と言っていい。

朽ち果てた空き家、火事になっても放置......

分譲地内に放置されている空き家

分譲地内に放置されている空き家。 筆者提供

分譲地内には空き家が目立つ。

このエリアでは中古住宅の需要は旺盛なのだが、あまりに交通が不便なためなのか、高齢となった所有者が介護施設に入所したり、入院したりして使われなくなったのだろう。かといって売りに出されずに放置されている空き家もある。

問題はこうした空き家が放置され続け、取り壊すしかないほど朽ち果てた場合である。

この分譲地には1カ所、火災で半焼し、残骸が撤去されず放置されている家屋跡がある。千葉県北東部の限界分譲地では、半焼家屋すらも放置されるのが常である。

火災で半焼後、放置されている家屋

半焼後、そのまま放置されている家屋。地価が安く解体費用の回収が見込めない限界分譲地では、被災家屋の撤去も進まない。 筆者提供

わざわざ費用を投じて解体・撤去しても再利用や売却が見込めない。また土地の実勢相場が、家屋の解体に要する費用をはるかに下回っていて元が取れないことが原因だ。通常の劣化による廃屋も同様だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中