最新記事

BOOKS

「4K」で高齢化のトラック業界を、輸送需要の急減と宅配需要の急増が襲っている

2021年2月26日(金)17時35分
印南敦史(作家、書評家)

いくつもの要因により需給バランスが大きく崩れてしまった

コロナの影響で仕事を失った運送会社の多くが、荷動き拡大の続く領域に軸足を移しつつある。とはいえ元請けサイドの対応は厳しく、下請けへの業務委託料の水準はコロナ前に比べ低下している。


 例えば、ある軽トラドライバーは、かつて所属していた大手宅配便会社の営業所に下請けとしての"復帰"を打診したところ、従来よりも三〇%ダウンの委託料を提示された。(92ページより)

燃料代が安くなっていること、受領印をもらわずに玄関先に荷物を置く「置き配」が許容され、対面での荷受けが減って配達業務の生産性が上がっていること。それらが、廃車担当者が口にした"値下げの根拠"だ。

そうでなくともコロナで休職中だったり、職を失った求職者が営業所に殺到している。つまり、しばらくは安い労働力の確保が見込まれるため、元請けは軽トラ会社に強気の姿勢を示すようになったということ。

こうした点からも、需給のバランスが大きく崩れてしまったことが理解できるだろう。

果たしてトラックドライバー業界はどうなっていくのか? ドライバー不足を補うべく、女性ドライバーや外国人ドライバーの就業促進も行われている。また、宅配ロッカーや「置き配」を普及させたり、将来に向けて自動運転トラックの実用化が進められるなど、さまざまな取り組みが行われてはいるようだ。

しかし複数の領域においてハードルは多く、また前述したとおり、"期待の星"であるはずの若者は自動車の運転や免許取得への関心が希薄だ。そうでなくても「4K仕事」だと言われているのに......。


 トラックドライバー職が魅力のある仕事であれば、若者たちを呼び込めるかもしれない。ところが、これも繰り返しになるが、トラックドライバーの賃金水準は全産業平均よりも一~二割程度低い。そのうえ労働時間は他産業よりも長い。
 もっとも、ここ数年は人手不足を背景に運賃の値上げに成功し、それを原資にした賃金の上昇も見られた。ただし、新型コロナ以降、荷動きの低迷でトラック運送会社の収益は悪化。業績の大幅な落ち込みを受けて、今後は運送コスト全体の約四割を占める人件費(ドライバーの賃金)にメスが入る可能性も否定できない、そうなれば、トラックドライバーはますます集まりにくくなるだろう。(170~171ページより)

冒頭で述べたとおり、現職ドライバーの高齢化は進む一方だ。そういう意味では、取り返しのつかない事態になるのは時間の問題だと思うしかない。だからこそ、日常的に宅配の恩恵を受けている我々も、この問題について考える必要がありそうだ。


ルポ トラックドライバー
 刈屋大輔 著
 朝日新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中