最新記事

BOOKS

「4K」で高齢化のトラック業界を、輸送需要の急減と宅配需要の急増が襲っている

2021年2月26日(金)17時35分
印南敦史(作家、書評家)

活況を呈しているように見えても、B2B貨物は需要減

しかし、それでもここ数年、トラック輸送のマーケットはドライバー不足などを背景として、売り手に有利な環境だったのだという。ところが、コロナ・ショックを機に状況は一変することとなった。

問題は、生活必需品以外の荷物の輸送需要が激減したことだ。工場~物流センター~店舗・オフィスを行き来する"企業間取引"のB2Bの領域では、"トラック余り"の現象が起き始めているのである。ネットショッピングの拡大を思えば意外に思えるかもしれないが、市場に出回る限られた求車情報に対し、車両を持て余している運送会社が採算度外視の運賃で入札してくるケースも相次ぐ。


 運賃が投げ売りされている実態はドライバーたちも把握している。東京〜大阪間で大型車を運行する、あるドライバーは打ち明ける。
「配車係から、先日は東京~大阪間の大型トラックでの輸送を運賃六万円で引き受けた、と聞いた。売り上げがゼロになるよりはましだ、という判断のようだ。同区間の輸送がそんなに安い運賃になったことは今までなかったと記憶している。それだけ日本全体で輸送の仕事が減っているのだろう」(89ページより)

そうした運賃市況の悪化は、当然ながらトラック運送会社の収益減に直結する。ここ数年は上昇傾向にあったトラック運賃が、コロナの影響でパーになってしまった。感染拡大が収まれば、荷量は徐々に増えていくかもしれない。が、それでもコロナ前の水準にまで戻るとは考えにくくもある。

実態を知らない我々の目に、トラック業界は活況を呈しているように見える。だが、少なくともB2B貨物に関しては、現実はまったく違っているようだ。

一方、企業と個人間の取引であるB2C貨物の荷動きは急伸している。コロナ禍に伴う「巣ごもり消費」の格大で、ネット通販や生協などの食材宅配、ネットスーパーといったサービスでの宅配需要が増えているからだ。

物量は平時の1.5~2倍程度にまで膨れ上がっており、ドライバーや車両の確保が追いつかない。そのため納品(配達)までのリードタイムに遅れが生じているケースも見受けられるという。

つまり、大型トラックの需要激変とは異なり、軽トラ業界では、大手宅配便会社やネット通販会社、食品スーパーの店舗から委託される個人宅への配送など「B2C向け業務」へのシフトが加速しているということのようだ。

不在による再配達が多く非効率なB2C業務は、これまで軽トラ会社から敬遠されがちだった。ところが企業配の荷動きに回復の目処が立たないため、「いまは宅配の仕事に頼るしかない」という状況なのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中