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日本企業はなぜ「お雇い外国人」に高額報酬を払うのか

2018年6月21日(木)18時05分
松野 弘(千葉大学客員教授)

日本企業が「外国人役員」を雇う訳

明治時代の日本はまだ、東洋の非文明的、かつ、治安が不安定な国であり、到底、今のようなトップクラスの先進国ではなかった。そのため、簡単に現在の「外国人役員」と報酬面で比較するには無理があるが、現代と比べても、日本人役員の報酬よりも「外国人役員」の報酬の方がはるかに高いのは変わらないようだ。

日本企業が欧米流の企業買収によって、企業規模・製品シェアの拡大を経営戦略の重要目標としはじめた理由には、(1)国内市場の低迷状況から抜け出していくこと、(2)グローバル市場でのシェアを拡大し、グローバル企業への転換を図っていくこと、(3)市場特性に対応したグローバル戦略を推進していくこと、などがあげられる。そのための人材獲得手段として、当該地域市場に詳しい人材、すなわち、外国人役員を登用していくことがグローバル企業のスタンダードとなりつつあるのだ。

これはプロ野球で、戦略となる外国人選手を高額で獲得して、リーグ優勝、日本シリーズ優勝につなげることと類似している。高額で獲得しているので、成績不振や勝利に貢献できなくなるとその選手のクビを切ることになる。

これは企業社会でも同じだ。日本の企業も即戦力となる人材を獲得することで収益をあげようという、欧米流のマネジメントへと近づきつつあるということである。

ソフトバンクグループの孫正義CEOがインド人実業家のN.アローラ氏を後継社長候補者として招聘し、在職3年間で退職金の68億円を含めて、300億円以上の大枚をはたいたことはあまりに有名である。

後継候補者と見込んだにもかかわらず、アローラ氏はわずか2年で副社長を辞したが、果たして、アローラ氏にそれほどの報酬を与えるだけの実力があったのかどうかはわからない。結果、この人材投資はなぜ、失敗したのか、それは孫氏のみぞ知ることである。

また、日本を代表する自動車メーカーの日産は1999年、同社の経営危機を打開すべく、フランス・ルノーから上席副社長のカルロス・ゴーン氏を取締役として迎え、ゴーン氏は2001年にCEOに任命された。

彼は大幅なリストラや工場売却等のコストカットを断行し、その後10億円以上の高額報酬を得たことは有名である。低迷する日産の経営は欧米流のコストカット戦略で収益上は一時的に黒字になったが、優秀な社員が日産を飛び出した結果、業績は低迷状態に戻ってしまったようだ。

日本企業では、企業と従業員は運命共同体だから、従業員を犠牲にしてまで経営を建て直すというところまで割り切っていないのが実態である。一方、欧米企業の経営者の基本的な役割は、経営者が株主によって選ばれることから、常に株主に目を向け、株主配当をいかに増やすかに焦点をあてている。株主配当を増やせば、自らの地位は安泰であるとともに、報酬も増えるからだ。

日本企業がなぜ、高額報酬を支払ってまで、外国人役員を登用しているのかというと、市場のグローバル化に焦って邁進しているからだ。

外国人役員は短期に成果を出して高額な報酬を獲得することが目的だから、企業が短期的に収益をあげようとした場合、安易に外国人役員を登用する傾向がある。とりわけ、企業のグローバル化戦略を推進していくためには、短期的な収益をあげてくれるだろうと期待する外国人役員が手っとり早いからだ。

日本企業も近年では、経営効率をあげるために、企業の経営資源である人材や資産を切り売りしていく傾向が続いているようだ。先に指摘した日本企業による海外企業の買収劇はその端的な例だ。

買収といっても、巨額な資金を他から借金して実行しているわけだから、買収した企業が収益をあげなければ、その企業は倒産の危機に直面する。東芝が米国の原子炉メーカーのウェスティングハウス・エレクトリック買収によって巨額の損失を産み出し、経営危機に襲われたのはつい最近の出来事である。

欧米の経営者にとって、仕事に対する評価は報酬だ。高い報酬が提示されれば、いつでも今勤めている企業を辞めていくのが常である。当然といえば当然であるが、企業がつぶれてしまえば、困るのはその企業の従業員であり、取引先であり、ひいては、その商品・サービスを購入している顧客である。自分の報酬さえよければよいという拝金主義的、自己利益的な経営者はいずれは淘汰されていくだろう。

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