最新記事

自動運転車

自動運転車でグーグルと手を組むフォードの心中は?

2015年12月28日(月)15時00分
三国大洋(オンラインニュース編集者)

 10月末にBusinessweekに掲載されていたGMの自動運転車開発をめぐる特集記事によると、「グーグルのことを昨年には『深刻な競争上の脅威』と呼んでいたGMの自動運転車プロジェクト責任者が、最近ではグーグルとの『和平』あるいは『連携』を口にするようになっている」という。

 また、今回のYahoo Auto報道を踏まえて書かれたBloomberg記事には「米自動車メーカー各社とグーグルとの距離が縮まってきている。メーカー各社は、自動運転車の頭脳にあたる部分を自前で開発する代わりに、グーグルの技術を利用することを検討している」とする業界アナリストのコメントが引用されている。上記のメルセデスCEOの発言とはだいぶ温度差があるようにも感じられるが、おそらくは自動車メーカー各社の世界的な競争力や、具体的な戦略上重要な要素(*)の有無などを踏まえての違いかとも思われる(*「戦略上重要な要素」としてまっさきに思い浮かぶもののひとつは地図情報で、グーグルが「Google Maps」を保有しているのは周知の通り。それに対して、BMW、ダイムラー、アウディの独3社は今年、ノキアの保有していた地図事業「HERE」を買収していた)。

 なお、このBloomberg記事には「グーグルがフォード以外の米自動車メーカーとも提携に向けた話し合いを進めている」「GM幹部やフィアット・クライスラーCEOが、グーグルとの提携に関心があることを示唆する発言をそれぞれしていた」ともある。

自動運転車に対する考え方の一致が提携を容易にした?

 カリフォルニアでの公道実験(「California Autonomous Vehicle Testing Program」)については、BMW、ホンダ、メルセデス、日産、テスラ、フォルクスワーゲン、グーグルなどが規制当局からの承認をすでに得ているが、このなかに一番最近加わったのがフォードだ。The Vergeの今回の記事には、フォードもやはり以前から独自に自動運転車の研究開発を進めてきているとあるが、一部のプロトタイプ発表などを除けば目立った動きはこれまで伝えられておらず、今年1月にあった同社のシリコンバレー研究開発拠点の開設の際にも具体的な計画などは明らかにされていなかった。

 ただ、WIRED記事によると、フォードは自動運転車に関し、グーグルと同様にドライバー(人間)の存在を抜きにしたアプローチを指向しているという。このあたりは人間の不足点を補うものとして自動運転機能を位置付けているメルセデスやアウディ、GM、テスラなどとは大きな違いと思われ、この考え方の一致が両社の合意を容易にしたとの可能性も考えられる。

気になる「上手まわしの取り合い」

 さて。上記のWIRED記事には、「フォードが喜んでグーグルの単なる下請けに甘んじるとは考えられない」という指摘がある。それに対して、上記のThe Verge記事には「自動車のビジネスは利益率の高いビジネスではない。いっぽう電子関連のビジネスはとても高い利益率が得られるビジネス」「グーグルやアップルは、工場の操業やロジスティクス=サプライチェーンの運営、それにお役所の規制が絡むような面倒なことには関わりたくない」といったアナリストの見方がある。

 Android端末メーカーがiPhone対策など合理的な判断に基づいてグーグルのモバイルOSを採り入れたことで、結果的に厳しい競争に追い込まれたことは周知の通りだ。また最近ではあまり聞かれなくなったが、ひと頃は欧州の携帯通信事業者の間からグーグルやアップル、フェイスブックなど、スマートフォンの普及で大きな利益を手にした米国勢に対する「ただ乗り批判」の声もよく聞かれた。そうした前例も考えあわせると、フォードがグーグルを相手に、どういう組み方をするのか、あるいはどうやって上手まわしをとられないようにするか、といった点にやはり関心が向いてしまう。

 そのあたりのカギを握る人間のひとりが、現在グーグルの社外取締役として同社のやり方を知る元フォードCEOのアラン・ムラーリー(以前、マイクロソフトの後継CEO探しの際にも一時有力視されていた人物)ではないかという気もしているが、この点について推測する手がかりはいまのところ見つからない。


[執筆者]
三国大洋
オンラインニュース編集者。海外ニュース・ウォッチャー歴25年。情報雑食系、主食は「ITとビジネス」系。NBAマニア(観るだけ)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

仏戦闘機、ウクライナに年内供与 パイロット訓練へ

ワールド

米仏首脳、中東の緊張激化回避へ取り組み強化 ウクラ

ワールド

イスラエル軍、人質4人救出 奪還作戦で210人死亡

ビジネス

米インフレ統計とFOMCに注目=今週の米株式市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    ガスマスクを股間にくくり付けた悪役...常軌を逸した…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 7

    ロシア軍が「警戒を弱める」タイミングを狙い撃ち...…

  • 8

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 9

    英カミラ王妃が、フランス大統領夫人の「手を振りほ…

  • 10

    【独自】YOSHIKIが語る、世界に挑戦できる人材の本質…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中