最新記事

ネット

ハフィントン流最強ニュースサイトの作り方

2010年9月1日(水)16時03分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 編集者はグーグルの人気検索キーワードを常に確認している。腕の見せ所は、人気の検索語の検索結果の上位にハフィントンの記事が表示されるよう記事を作ること。これは「検索エンジン最適化」と呼ばれる裏技で、ハフィントンの得意とする分野だ。

 アリアーナは技術の重要性を認めながらも、「人間による編集に勝るものはない」と強調する。彼女はハフィントンの独自記事に誇りを持ち、成功したのは最初から情熱と独自の視点でニュースを追い掛けてきたからだと語る。

 中立で不偏不党だというふりなどしなかった。「私たちは立場を明確にしている。例えばアフガニスタン戦争なら、これは不必要な戦争だと言い続けてきた」と、アリアーナは言う。「編集者が自分の情熱に従う、それがすべてだ」

 最も驚異的なのは、読者からのコメントの数だろう。ハフィントンでは1つの記事に5000件以上のコメントが集まることも珍しくない。最近では、前大統領の弟で前フロリダ州知事ジェブ・ブッシュが12年の大統領選に出馬するかもしれないという記事に8000件以上のコメントが殺到した。6月のコメント件数は、サイト全体で3100万件に上った。

読者の衝動を理解する

 アリアーナは、早い時期からコメントをチェックし、ネットでありがちな誹謗中傷合戦ではなく、より文明的な議論の場を守ろうとした。手間のかかる仕事だ。20人の専従スタッフが、悪意あるコメントの削除に当たっている。

「自己表現は新しい娯楽だ」とアリアーナは言う。「人々は情報を消費するだけでなく、自分も参加したいと思っている。その衝動を理解することが、ジャーナリズムの未来につながる」

 ハフィントンは最近、SNSのような役割も果たし始めた。記事を読むだけでなく、サイトに滞在して記事について他の読者と話し合う人が増えているのだ。このようにサイトへの積極的な関与を促し、ユーザーとの関係を深めることを「エンゲージメント(関与)」と言い、広告を集める上で極めて有用だ。「私たちはユーザー参加型のソーシャルニュースサイトだ」と、アリアーナは言う。

 少々大げさかもしれない。しかしそれは、ハフィントンが進化の最中だという意味でもあり、行き着く先は誰にも分からない。大手メディアに吸収される可能性もあるだろう。MSNBCとヤフーが買収を打診したという噂もあるし、株式公開を準備しているともいわれる。

 これらの噂についてヒッポーは、自分とアリアーナは「独立した強固な」ビジネスを確立しようとしている、とだけ語る。ニュースサイトの時代は始まったばかりで、ハフィントンには大きな可能性がある、とも言う。
期待が持てそうな兆しもある。ニューヨーク・タイムズの4〜6月期のネット広告収入は5000万ドル。年間2億ドルのペースだ。読者数がそれほど変わらないことを考えると、年間の広告収入が3000万ドルしかないハフィントンには、まだ成長の余地があるという見方もできる。

「売り上げ1億ドル、利益率30%も夢ではない」と、ヒッポーは言う。「商品はそろっている。魅力的な読者もいる。かなり収益性の高い会社になれる」

 具体的な道のりはまだ見えないが、アリアーナ自身は少しも心配していない。彼女は「ネットメディア界の女王」になりつつある。映画『市民ケーン』が描いた新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの現代版だ。彼女はその地位を大いに楽しんでいる。確かに、いま楽しまないでどうする?

[2010年8月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中