最新記事

原油流出

それでも海底油田をやめられない国々

BPの事故を尻目に、主な産油国は海底油田開発を見直すどころかますます勢い付いている

2010年6月23日(水)17時48分
スティーブン・レバイン

海の要塞 ブラジル国営石油会社ペトロブラスが操業するリオデジャネイロ近海の石油プラットフォーム Bruno Domingos-Reuters

 BPがメキシコ湾で起こした原油流出事故に関し、6月15日の米下院公聴会には石油メジャーのエクソンモービル、シェブロン、シェル、コノコフィリップスの幹部が出席。証言では、自分たちはBPと違うと口をそろえた。

 さらにメキシコ湾の海底油田開発におけるBPのパートナーであるアナダルコペトロリウムも批判を開始。BPの「無謀な行動」が事故を招いたとして、自社への非難をかわそうとした。こうした動きを見れば、石油業界全体が怯えていることが分かるだろう。

では、何を怯えているのか? まず考えられるのは、大惨事となった原油流出事故によって将来の、またはすでに許可が下りているメキシコ湾での海底油田掘削権が永久に失われることだ。その影響はメキシコ湾にとどまらず、世界中の海底油田事業にも波及するかもしれない。結局のところ石油大手の優位性は、彼らが主張するところの「優れた掘削技術」にあるのだから。

 ロンドン・オブザーバー紙のリチャード・ワクマンとジョン・スティブスも「石油メジャーは掘削を行う地域の社会や環境を露骨に軽視することで、(世界中で)非難されている」と書いている。AP通信のジェーン・ウォーデルによると、今回の原油流出を受けて、石油産出国は掘削作業の再評価を行っている。では、こうした国々の関心事は何なのか?

オーストラリアにとっては「チャンス」

 1つのヒントは、6月20日付けニューヨーク・タイムズの噴出防止装置に関する記事にある。表向きは壊滅的な原油流出を防ぐ安全装置となる技術だが、実地での使用状況を見直したところ実際は45%の確率でしか作動しないことが分かったという。つまりBPだけでなくほとんどの多国籍石油企業、とりわけ一部の大手企業は利益の種を失う脅威にさらされていると言っていい。

 しかし、実際は違うようだ。

 世界の石油産出国を見ていくと、外国資本の石油企業による海底油田掘削に対して厳しい姿勢を取ろうとしている国は一つも見当たらない。それどころかオーストラリアなど一部の国は、BPが起こした今回の事故は自国の海底油田に注目が集まるチャンスと捉えているようだ。
 
 原油流出が長引けば、こうした姿勢もおそらく変わるだろう。だが厳重な安全対策を求める声が挙がる中でも、石油資源に恵まれた多くの国々は普段通りのビジネス----つまり向こう見ずな開発----を続けている。

 もちろんBPに対する逆風はある。例えばブラジルでは、BPに対する詳細な調査が行われている。同社のトニー・ヘイワードCEO(最高経営責任者)は数日中にロシアに飛び、ドミトリー・メドベージェフ大統領に「BPが倒産することはない」と保証する予定だ。しかしこれらは例外的な動きと言っていい。

 以下に、メキシコ湾での原油流出事故に主要産油国がどう対応しているかを紹介しよう。

オーストラリア:マーティン・ファーガソン資源・エネルギー相は海底油田探査の一時停止を行わなかったばかりか、31カ所の海域における採掘権の入札を開始。それも、BPが流出事故を起こした海底油田の2倍の深さにあるものだ。

ブラジル:海底油田開発を積極的に進めているだけでなく、5カ年の投資計画の規模をさらに拡大させた。

カナダ:アルバータ州のオイルサンド(油分を含む砂)の採掘には通常の油田採掘以上の燃料や水が必要で、多くの非難の的になっている。だが深海油田の問題と比べれば、オイルサンドのほうがずっといい----少なくともカナダはそう主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中