コラム

歯磨き粉でコロナ予防?──ジョークが通じないアメリカ人と陰謀論パラダイス

2022年08月22日(月)12時20分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
陰謀論

©2022 ROGERS‒ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<「今度会おうね!」「死ぬほど美味しい」など社交辞令や冗談はある。しかし、これほどまでにウソを真実だと信じるアメリカ人が多ければ、陰謀論者がやりたい放題に>

人間はよくウソをつく。だいぶ老けた友達に「変わらないね!」とか。「似合うね!」も「今度会おう!」も「死ぬほどおいしい」もだいたいウソだ。

社交辞令や冗談として通じるなら、発言が現実にそぐわなくても、行動が伴わなくても、問題ない。でもウソだと分からない相手だと、大問題だ。

Alex Jones(アレックス・ジョーンズ)は陰謀説を流すラジオ番組の司会者で、陰謀説系のウェブサイト、インフォウォーズの創設者でもある。サイト名からも情報(誤報)で戦争を起こす思惑が見えるね。

彼はこれらで20年以上、大声でウソを繰り返してきた。それも社交辞令程度のかわいいやつではなく......。

■オバマはアルカイダの一員だ!

■ヒラリー・クリントンはピザ屋で児童買春をしている!

■大統領選挙で不正があった!

■小学校で起きた銃乱射事件はでっち上げだ!

......などの、とんでもない主張だ。聞き手はウソだと分かれば、娯楽だと捉えてくれるはず。だが陰謀説を信じるリスナーは、行動を起こしてしまう。

「児童買春」を止めるべく実際にピザ屋で銃を乱射する。「不正選挙」を阻止すべく議事堂に乱入する。「偽乱射事件」の「真実」を明かすべく遺族を脅迫する。

ウソが実害を生んでいるのだ。乱射事件の遺族はそう訴え、ジョーンズ相手に裁判を起こした。そしてなんと奇跡的に勝訴し、彼から計4930万ドルの賠償金を勝ち取ることができた!

敗訴に加えて、ジョーンズは主要SNSから追放されてリスナー数が減り、ある程度封じ込められているように見える。

だが風刺画が指摘するとおり、(トランプ前大統領など)他の陰謀論者が同様の「病原体」を全米の大気にまき散らしている。なぜなら、いい商売になるから。

ジョーンズは番組やサイトで自社ブランドの商品を売っていた。「オバマはアルカイダ」と信じる人は「歯磨き粉でコロナを予防できる」といったウソをも信じてくれるようだ。だまされる人がいる限り、だます人も次々と出てきて当たり前。そういう国だ。

というか、そもそもウソが真実だと思うアメリカ人がこんなに多いという真実をウソだと思いたいね。

ポイント

WE'VE ISOLATED AND CONTAINED THIS STRAIN OF THE DEADLY VIRUS!
致命的なウイルスの株の分離と封じ込めに成功したぞ!

GREAT...WHAT ABOUT THE REST?
よし......ほかの株は?

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story