コラム

「トランプの国民投票」になる中間選挙で民主党が健闘している説を考える

2022年09月10日(土)15時30分

バイデンはトランプ派を民主主義への脅威と位置付けたが NATHAN POSNERーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<過去4回の結果で勝利の法則となったバロメータを見てみると......>

たとえ大統領の人気が高くても、政権与党は中間選挙で大敗を喫する──アメリカ政治で最も簡単な選挙予測だが、例外が2回ある。

1つは、ビル・クリントン大統領の弾劾における共和党の違憲的やりすぎ行為(セックスに関するちょっとした嘘を理由に史上2人目の弾劾訴追に踏み切った)に国民の反感が高まった1998年。

もう1つは、9・11同時多発テロ後にアメリカがジョージ・W・ブッシュ大統領の下に結束した2002年だ。ただし、大統領に強い追い風が吹いたこの2回の選挙でも、与党はほとんど議席を伸ばせなかった。

現職のバイデン大統領は、歴史的な低支持率、インフレ高進、株価下落、エネルギー価格高騰に悩まされ続けている。史上最高齢の大統領として「時間との闘い」にも苦戦するなか、共和党では多くの政治家が立候補に名乗りを上げている。

ところで、下院中間選挙での勝利を予測するほぼ完璧なバロメーターとなる統計がある。民主・共和両党の予備選における立候補者数の差だ。

近年でこの差が最も大きかった4回の中間選挙は、いずれも立候補者数の多い党が大勝している。

2010年には共和党の立候補者が民主党を461人上回り、議席数を63増やした。2018年は民主党が共和党より291人多く立候補し、41議席増やした。2022年は共和党が民主党より384人多く、この法則どおりなら50近い議席増になる。

民主党にとってもう1つの憂慮すべき統計は、史上最多の34人もの下院議員が引退することだ。民主党の引退議員が30人を超えたのは、超不人気だったカーター大統領時代だけ(31人)。平均は約14人だ。

加えて野党側は、信じ難いほどの追い風を受けている。議会の信頼度は最低レベル、国の方向性に不満を持つ有権者の割合は最高レベル。一方でインフレ率は数十年ぶり、消費者心理もひどく落ち込んでいる。

それでも民主党は、共和党が強いアラスカ州の下院補選で元副大統領候補の右派サラ・ペイリンを破るなど、最近の補選で勢いを増している。

米連邦議会議事堂襲撃事件の公聴会では、共和党指導部の誤りが浮き彫りになった。人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める判例を覆した最高裁の判決は民主党支持者の怒りに火を付けた。雇用情勢は依然として堅調だ。オハイオ、ペンシルベニア、ジョージア、アリゾナといった激戦州では、政治家としての資質に疑問符の付くトランプ派が予備選で勝ち、共和党の候補になった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス

ワールド

米英外相、ハマスにガザ停戦案合意呼びかけ 「正しい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story