コラム

FBI捜索でトランプはますます次期大統領に近づいている

2022年08月23日(火)11時00分

トランプはガーランド司法長官とバイデン大統領への怒りを高め、今後の選挙を有利に運ぼうとしている。

「侵されたのは私の家だけではない。愛国心に満ちた全てのアメリカ人の家だ」とトランプはほえた。FBIが彼の自宅に何かを仕掛けたとも主張し、違法行為が明らかになった場合に備えて支持者に対して幻想的な言い分を与えている。

調査会社ラスムッセンの最新調査によれば、投票意向の有権者の53%が「FBIの最上層部には、FBIをバイデンの私的秘密警察のように使う政治的ゴロツキ集団がいる」という主張に賛同した。

だが皮肉なことに、FBIは最も保守的で白人男性優位の政府組織だ。トランプ本人が指名した現長官を含め、歴代の長官は全員共和党員の白人男性が独占している(民主党は自党員を長官に指名したことはない。FBIが全体的に保守的で共和党色が強いため、民主党系を選べば混乱が生じ得ることを認識しているからだろう)

トランプが強い政治力を保っていることは間違いない。トランプの弾劾訴追決議案に賛成した共和党下院議員10人のうち、まだ政治的に健在なのは2人だけ。反トランプの急先鋒だったリズ・チェイニー下院議員は、中間選挙のワイオミング州予備選でトランプの推薦候補に大敗した。

トランプの次男エリックは、父はブッシュ家、クリントン家、今回のチェイニー家と3つの政治王朝を破壊したと豪語した。実際、中間選挙で劣勢が見込まれる民主党が今回の一件で挽回することはない。

だが、トランプは国そのものも破壊しかねない。FBI捜索の数日後、ライフルで武装した海軍退役軍人リッキー・シファーがオハイオ州のFBI事務所に侵入を試み、警察に射殺された。シファーは連邦捜査官殺害を「愛国者」に呼び掛けていた。

心の奥では誰もが真実に気付いている。おそらくトランプは法律を破った。従って本当は刑務所に入るべきだが、この真実を認めるぐらいなら、本人は自国政府に対する戦争をあおることを選ぶだろう。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入の有無にコメントせず 「24時間3

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story