コラム

フランスを袖にしたバイデンの外交失態に中国が高笑い

2021年10月01日(金)15時09分

フランスを怒らせたバイデン(モニター内はモリソン豪首相) TOM BRENNERーREUTERS

<原潜交渉をめぐり新自由主義同盟で始まった内紛は「共通の敵」を利する大失策だ>

バイデン米大統領が苦境に立たされている。アメリカ国内では、新型コロナウイルスの感染が再拡大している。

一方、アフガニスタンでは、よりによって9・11テロから20 周年の日に、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールの大統領宮殿に旗を掲げて新政権の樹立を表明した。有権者の視線が厳しくなっているのも不思議ではない。最新の支持率は、就任7カ月余りの大統領の支持率としては、近年のアメリカ大統領の中で(トランプ前大統領を除けば)最低の44%に落ち込んでいる。

そこへもってきて、中国を意識してイギリスおよびオーストラリアと発足させた安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」をめぐり、アメリカはフランスの怒りを買った。米英がオーストラリアに原子力潜水艦技術を提供することになり、オーストラリア政府がフランスとの潜水艦建造契約を破棄したのだ。

フランスはこれに激しく反発している。フランスの外相は、相談もなく一方的な決定をしたバイデンを「ツイッターに書き込まない以外はトランプと同じ」と酷評した。もっとも、バイデン政権にとってAUKUSの発足は、中国への牽制という意味では大きな成果だ。

オーストラリアに原子力潜水艦が配備されれば、中国は南シナ海で好き勝手にできなくなる。場合によっては将来的に日本と韓国に原子力潜水艦技術を提供する可能性も示唆できる。フランスにとって、潜水艦12隻を売り損なうことは決定的な打撃とまでは言えない。

バイデン政権が犯した過ちは、フランスの心情への外交的配慮を怠ったことだ。フランスはドゴール大統領の時代からずっと、アメリカがインドシナ地域に首を突っ込まないようクギを刺し、アングロサクソン諸国が同盟を組んでフランスを一方的に排除することを恐れていた。

バイデン政権は無神経にも、フランスが最も疑心暗鬼になっていたことを実行したのだ。あまりに近視眼的な行動と言うほかない。

インド太平洋地域にいくつかの島と軍事基地を保有するフランスは、自国をこの地域のプレーヤーと位置付けていて、米中対立の緩衝材になり得る存在だと考えてきた。それなのに、アメリカがこの地域でフランスを冷淡に締め出し、EUから出て行ったばかりのイギリスと一緒になって行動しようとするのは、フランスにしてみれば侮辱以外の何物でもない。

バイデンは慌ててフランスとの関係修復を試みているが、この一件はバイデン政権の近視眼ぶりを浮き彫りにしただけではない。今回の行動は、これまでの政治家人生を通じて深い共感能力により人間関係を円滑に運んできたバイデンらしくない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

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