コラム

新宿の「日常」:朝の酔っぱらい、喧嘩、サラリーマンの群れ──さらに新たな境地を求めて

2019年09月13日(金)11時15分

From Tadashi Onishi @tadashionishi

<独自の境地を開き始め、世界的に評価を得るようになったストリートフォトグラファー、大西正。東京の普通のサラリーマンであり、「路上撮影者」と自負している>

ストリートフォトグラフィーはインスタグラムの登場とともに、ここ数年で写真界の大きな主流になったジャンルだ。広義の定義では、人が生活し交錯する場所を撮影したもの全てを含むが、ここでは一般に知られているように、街角や通りを中心的な舞台として、人間のドラマ(に関わる環境や、その一瞬一瞬)を切り取るものを指す。

優れた写真であれば、一瞬にしてシェアされ、それが数多くの人をインスパイアする。そのため、ストリートフォトグラフィー全体としては、写真のレベルが驚くほど上がってきている。

とはいえ、同時に諸刃の剣的な要素も生み出している。意図的にしろ無意識的にしろ、世界中のストリートフォトグラファーたちが、コピーのコピーを生み出しているようになってきたのである。

また、表面的にはカッコよくても、物語性のない、あるいは現実の匂いや生活感のしない、フェイク的な写真が多くなってきている(写真界においては、現実に存在しなくても、現実の匂いがする場合は必ずしもフェイクにならない)。

そんな中で、独自の境地を開き始めた写真家がいる。東京在住の、普通のサラリーマン。ただし真の本職は「路上撮影者」と自負しているという大西正、46歳だ。

大西が写真に興味を持ち始めたのは、8年ほど前。子供ができ、一緒に公園に行ったときに、きれいに花を撮りたくてデジタルカメラを買ったのがきっかけだという。

その後、2014年にインターネットでストリート写真を見つけ、その真髄の1つであるセットアップなしの醍醐味に魅了された。そして彼は、真剣にストリート写真を撮るようになる。独学だけでなく、日本では数少ない本格的なワークショップ(resist写真塾と、東京都写真美術館のフォトドキュメンタリー・ワークショップ)で写真を学び、才能を開花していくのである。

大西はすぐに典型的なストリートフォトグラファーの撮影術を身に着けた。被写体とすれ違いざまに、シャッターを切る。時にはフラッシュを多用し、時にはファインダーをのぞかずに。

標準広角を使用した被写体への距離感と構図の作り方が巧みなため、躍動感が溢れ出ていた。とはいえ、そうしたものはカッコよくても、すでに述べたように、本人が知らず知らずのうちに、コピーのコピーの作品になってしまっているものも多かった。それどころか、大西が被写体を撮影したつもりでも、結果的には被写体の手により撮らされた写真も存在していた(それを知ったうえで、さらにパロディ的に撮るならそれは可であるが)。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NATO基金、AI・ロボット・宇宙技術に投資 防衛

ビジネス

日立、ジョンソンCとの空調合弁売却を検討=BBG

ワールド

タイが同性婚合法化へ、上院で法案可決 東南アジアで

ビジネス

アングル:日銀国債買入れ減額、「相応の規模」巡り思
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 7

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story