コラム

第5回国会選挙が、イラク政界にもたらす新しい風

2021年10月20日(水)11時00分

だが、結局は2006年から8年間一貫して、海外由来のシーア派イスラーム主義勢力の、特にヌーリー・マーリキー(2006~14年首相)率いる保守派が政権中枢を占めてきた。2014年に「イスラーム国(IS)」がイラクの治安を脅かしてマーリキーが退陣すると、同じシーア派イスラーム主義だが中道派のハイダル・アバーディに首相位が移った。しかし、結局、保守派と中道派、そして同じく海外由来のイヤード・アッラーウィ率いる世俗派のベテラン政治家が支配政治エリート層を形成し、その間で権力をたらいまわしにして利権を山分けする構造には変わりがなかった。

一方、少数派のスンナ派は、これらの支配エリートとうまく連立を組んだり(世俗派が主に連立相手になった)、独自路線を追求してキャスティングボートを握ったりして、発言力を高めようとしてきた。

その、支配エリートの権力独占に反発し続けてきたのが、サドル派である。上記の支配エリートと異なり、海外に逃げることもせず、80年代のイラン・イラク戦争、90年代の経済制裁による国際社会からの途絶のなかで、貧困層や若年層の間に支持を広げてきた。反権力、反エスタブリッシュメントを掲げるサドル派には、イスラーム主義勢力だけでなく、世俗派のワーキングプアも合流した。2018年の選挙では、共産党と連立を組んだのである。

サドル派は当選者のほぼ全員が新人候補

2018年以降、サドル派が第1党に選ばれてきたのは、2003年以降海外から出戻ってイラク政治を牛耳ってきた支配政治エリートの与党勢力に対して、有権者が「ノー」を言い続けているからだ。そして、そのことは、各政党の選挙政策、候補者の立て方をみれば、よくわかる。

なにより興味深いのは、サドル派の当選者のほぼ全員が、新人候補である。再選を目指した前職議員は、ほとんどいない。2018年の選挙でもそうだが、中央政府や地方自治体で名を挙げたから当選した、というような例は少なく、地元の「知る人ぞ知る」的な候補の立て方である。無名の党員に次々にチャンスを与える、という方針だろう。

これに対照的なのが、マーリキーやアッラーウィなど、元首相級が率いる与党経験政党である。彼らは、中央政界や地方議会で活躍したとの名声をもとにしたベテラン議員を擁立することで、票を獲得しようとしてきた。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。
コラムアーカイブ(~2016年5月)はこちら

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

タイ北東部の託児施設で銃乱射、子ども22人含む34

ワールド

ノルウェーの石油生産、来年15%増加へ=予算案

ビジネス

台湾CPI、9月は前年比+2.75%に加速 3%下

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、8月は前月比-0.3%・前年比

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:超円安時代

2022年10月11日号(10/ 4発売)

急激に進む異次元の円安で1ドル=150円が目前 ── インフレとの同時進行から家計を守る方法は?

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    引き抜いた歯にガスマスク......ハルキウで見つかった拷問の証拠品──ウクライナ当局

  • 2

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾する瞬間の映像

  • 3

    韓国人がなんでもかんでも日本のせいにする理由

  • 4

    再生可能エネルギーの拡大を支える揚水蓄電、日本の…

  • 5

    超大質量ブラックホールが3年以内に大規模な衝突を起…

  • 6

    ヒトを襲い、弱い個体をいじめる 「優等生」イルカ…

  • 7

    日本国民の「韓国への感情」の深刻さを、韓国はまっ…

  • 8

    韓国軍、北朝鮮対抗で発射のミサイルがまさかの異常…

  • 9

    チョコが大好物で、食材の無駄は許さない...お抱え料…

  • 10

    見えてきたウクライナの「勝利」...ロシア撤退で起き…

  • 1

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾する瞬間の映像

  • 2

    キャサリン妃に「冷え切った目」で見られ、メーガン妃が激しく動揺した場面が話題に

  • 3

    超大質量ブラックホールが3年以内に大規模な衝突を起こすおそれ

  • 4

    下着モデルをとっかえひっかえ...不倫騒動アダム・レ…

  • 5

    ロシア警察、反戦詩人の肛門にダンベルで暴行

  • 6

    お色気バラドルから王室へ メーガン妃「サクセス」…

  • 7

    キャメロン・ディアスが告白「プールで◯◯しちゃった」

  • 8

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復…

  • 9

    実写版『バービー』主演女優 ビジュアル完璧も、そ…

  • 10

    ロシア軍の兵舎の様子は「イカゲーム」そっくりの悲…

  • 1

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復を狙ったが失敗した(王室専門家)

  • 2

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾する瞬間の映像

  • 3

    キャサリン妃に「冷え切った目」で見られ、メーガン妃が激しく動揺した場面が話題に

  • 4

    エリザベス女王が、リリベットとの写真を断った「も…

  • 5

    なぜこんな不仲に...キャサリン妃に対するヘンリー王…

  • 6

    女王の棺に「敬礼」しなかったヘンリー王子...メーガ…

  • 7

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 8

    カミラ夫人「いわくつき」シャネルバッグを、多くの…

  • 9

    バイデン大統領が女王葬儀で「スタンド席」に座らさ…

  • 10

    ロシア警察、反戦詩人の肛門にダンベルで暴行

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集
日本再発見 シーズン2
World Voice
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中