コラム

来年秋に迫った米大統領選の予備選がまったく盛り上がらない理由

2023年07月19日(水)11時40分

トランプについては、口止め料不正、機密書類持ち出し、女性への暴行などの容疑に加えて、議会暴動教唆や政権交代の妨害についても起訴される見通しが出ており、多くの容疑で公判中の刑事被告人となっています。ですが、コアなファンが「魔女狩りに屈しない」として支持を続け、共和党の大勢もこれに引きずられている格好です。

一方で、正面切ってそのトランプを批判する動きも党内にはあります。「議会暴動を扇動した」とか「ロシアとの癒着がある」などと真正面から「トランプ主義」に切り込もうとしています。具体的には、ペンス前副大統領が特に議会暴動を厳しく批判しており、ヘイリー元国連大使、クリスティー前ニュージャージー知事なども、トランプの側近だった過去を「かなぐり捨てて」トランプ批判に回っています。ですが、この3人の支持率はいずれも一桁台で、今のところ政局を動かす勢いはありません。

今後の展開ですが、まず8月23日には第1回の「共和党テレビ討論」が予定されています。デサンティス候補などはヤル気満々だとしていますが、トランプ候補は参加を渋っています。「自分には過半数の支持があるのに、支持率一桁台の泡沫候補と発言時間が同じなら不公平なので出ない」というのですが、実際は「議会暴動」や「ロシアとの癒着」についての論戦を回避したいからだという解説があります。

このままいきますと、第1回のテレビ討論は「トランプ抜き」となって、デサンティス氏を他の候補が叩きつつ、お互いに「トランプ批判の弁論合戦」を繰り広げるかもしれません。あるいは、トランプ票を恐れて、一部の候補がトランプ批判を控えるような「忖度」をして、場をシラケさせることもあり得ます。また、同じ時間帯にトランプは一方的な演説をテレビ中継させて混乱を狙うかもしれません。

いずれにしても、このままの流れで進んでいくのであれば、2024年の大統領選は、予備選も本選も低調なものとなる懸念が否定できません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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