zzzzz

コラム

人工島の軍事拠点化ほぼ完成--南シナ海、米中衝突のシナリオ

2017年07月03日(月)14時59分

6月末に公開された南シナ海の人工島フィアリー・クロス礁。軍事拠点化が進んでいることがわかる CSIS/AMTI DigitalGlobe/REUTERS

<北朝鮮の説得優先でトランプ政権が目をつぶっている間に、中国の南シナ海における人工島「ビッグ3」の軍事拠点化がほぼ完成した。今後また人工島の近くで米軍が軍事訓練などを行えば、中国は攻撃に追い込まれる危険がある>

中国が、南シナ海における「ビッグ3」の軍事拠点化を間もなく完成させる。2017年6月29日、米国のシンクタンクが衛星画像を公開して明らかにした。米国で「ビッグ3」と呼ばれる人工島は、南沙諸島のファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁及びスビ礁である。これらは、滑走路を備えて戦闘機や爆撃機を運用でき、対空ミサイル等を装備して基地の防空能力も高い。

しかし、中国が南シナ海に建設した人工島の軍事拠点化を完成させるからと言って、驚くには当たらない。中国は、南シナ海の実質的な領海化を諦めることはないのだから、当然の結果だと言える。ただ、皆の関心が北朝鮮に向いて、注意していなかっただけである。

トランプ政権が、北朝鮮の核弾頭及びICBM(Intercontinental Ballistic Missile:大陸間弾道ミサイル)開発を阻止することに、安全保障上の優先事項としたために、南シナ海問題は取引材料とされることになった。しかし、米国にとっての南シナ海問題の扱いが変わっても、中国にとっての南シナ海の重要性は変わっていない。

中国に余裕を与えたトランプ

北朝鮮の核開発を止めさせるために協力すれば、米国は、その他の問題において中国を強く責めることをしなくなった。元々、朝鮮半島に核兵器が存在することに反対の中国は、自らの国益に合致する範囲内で、米国に対して積極的に協力する姿勢を見せた。トランプ政権が中国の実質的な南シナ海の領海化及びそのための軍事拠点化に時間的余裕を与えたのは、オバマ政権と同様である。

オバマ政権は、南シナ海における中国の活動に対して軍事力を行使せず、国際法違反だとして非難するだけであった。オバマ政権は、南沙諸島の人工島から戦闘機等が運用されることに警戒感を高めてきたにもかかわらずである。

中国は、南沙諸島に建設した人工島の軍事拠点化を否定した。習近平主席は、2015年9月の訪米時、オバマ大統領との米中首脳会談後の記者会見において、「南沙諸島で進めている造成工事は、他国を標的にしたり、他国に影響を与えたりする活動ではない。軍事化を追求する意図は中国にはない」と述べたのである。

中国を信用できないオバマ政権は、中国外交部に習近平主席の発言の真意を再確認している。「中国の見解に変更はないか」と念押ししたのだ。中国外交部が「変更ない」と回答したことにより、南沙諸島の非軍事化は、事実上、中国の公式見解と認められるようになった。

しかし、習近平主席が南沙諸島の非軍事化を約束した2015年9月には、すでに、ファイアリー・クロス礁に3000メートル級の滑走路が建設されていることが確認されていた。

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する、もう1つの『白雪姫』とは

  • 4

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 5

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ.…

  • 6

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story