コラム

日本人が「ジャニーズの夢」から覚めるとき

2023年04月15日(土)12時21分

雑誌『広告』の記事の文末に掲載された一文

<カウアン・オカモト氏の会見によって、ジャニー喜多川氏による未成年への性加害問題がようやく日本の主要メディアで報じられた。タブー視されていた問題が実名会見で可視化され、長く閉じられていた「パンドラの箱」が開こうとしている>

ジャニー喜多川氏による未成年への性加害問題が、ようやくNHKと全国紙で報じられた。元ジャニーズJr.でミュージシャンのカウアン・オカモト氏が会見しニュースになったわけだが、ここに来るまで本当に長かった。

1999年に週刊文春が報じて以降、後追い記事はごく少数の雑誌媒体に限られ、新聞は裁判結果を最小限に取り上げただけ。テレビは完全無視を貫いた。結果、およそ四半世紀にわたって喜多川擴(ひろむ)氏による未成年(文春によると被害者には12歳も含まれている)への性加害は「なかったこと」にさせられていた。

ところで、ジャニー喜多川氏の本名は、喜多川擴(ひろむ)という。「ジャニー喜多川」という通名があまりに有名なためニュースでもそう呼ばれているが、本コラムでは敢えて本名を使ってみたい。というのも、「ジャニー喜多川」や「ジャニーさん」という通名を使った時点で、すでに相手の土俵に一歩引きずり込まれている感じがするからだ。

かの人物は、喜多川擴という名の一人の日本人男性に過ぎない。「ジャニー(Johnny)」という英語由来のニックネームには、彼が特別な人物であるという尊称のような響きがある。そもそもジャニーはジョンの愛称であり、性暴力加害者に対して親しみを込めた呼び名を使う必要はない。

喜多川擴氏による未成年への性加害が長い間「なかったこと」にされていたのは、彼が芸能界で絶大な権力を握り、メディアに強い影響力を行使していたためと言われている。

具体的には、カレンダーや広告、番組出演などを材料にしていたという。

出版業界では、今年は大手を含む9社が1部2700円ほどのジャニーズタレントのカレンダーを販売した。人気グループはそれが20万部も売れるらしいので、単純計算で売上は5億4000万円にもなる。カレンダー以外でもジャニーズが表紙を飾る雑誌や出版物は多数あり、決して敵に回すことのできない相手である。

テレビや新聞にとっても、喜多川擴氏の性加害問題を報じることで、所属タレントに出演してもらえなくなったり、タレントの出ている広告を取り下げられたりするリスクがあるという。少なくとも「リスクがある」と感じさせ、忖度をさせている時点で、ジャニーズ事務所によるメディア支配は十分に成功していたと言える。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税は生産性を低下させインフレを助長=クックFRB

ビジネス

トランプ政策になお不確実性、影響見極めに時間必要=

ビジネス

米財務長官、債務上限で7月中旬までの対応要請 8月

ワールド

韓国与党、金前労働相を届け出 大統領選候補選び迷走
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story