コラム

ゴールドマン、「神々の黄昏」?

2010年04月20日(火)18時26分

 もううやむやになったのかと思っていたオバマ政権とウォール街の対決が、突如再開した。先週金曜日、SEC(米証券取引委員会)がゴールドマン・サックスを証券詐欺容疑で提訴すると、週末のニューヨークから週明けの東京まで、市場を「ゴールドマン・ショック」が駆け巡った。

 単純に言うとどんな容疑なのか。ゴールドマン・サックスは、サブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅ローン)を組み込んだ「アバカス(そろばん)」というファンドを作って売った。それも、ヘッジファンドを運用する投資家Aが高値で売り抜けようとしているのを知りながら、何も知らない投資家B(といっても、プロの機関投資家たち)には「儲かりますよ」と勧めて損をさせた。投資家Bの犠牲の上に、Aとゴールドマンが儲かる仕組みだった、というのだ(ゴールドマンは、アバカスでは9000万ドルの大損をしたと反論している)。

 容疑を裏付ける証拠の1つとしてSECが公表したのが、アバカスを投資家に販売していたゴールドマン・サックスの花形トレーダー、ファブリス・トゥール(31)の電子メール。サブプライムバブル崩壊直前の07年1月に友人に宛てて書いたものだ。

「レバレッジ(自己資本に対する負債の倍率)はますます高くなり、すべてが倒壊する寸前だ。ただ1人生き延びられそうな『ファビュラス・ファブ(サイコーの自分)』は、自分で作った複雑でレバレッジが効いた異形の市場のど真ん中に立っている。その破壊力は彼自身にも測り知れない!!」

 万能感に酔うその姿は、まさに「サブプライム時代のマッドサイエンティスト」(ニューヨーク・タイムズ)だ。同紙によれば、07年前半には住宅ローン関連の証券化商品を扱うトゥールらの部署をロイド・ブランクファインCEO(最高経営責任者)以下の最高幹部たちが頻繁に訪れ、時には数時間も話し込んでいた。神にも等しいウォール街の経営幹部が役員専用フロアから「降臨」するのは滅多にないことだというから、何をしていたのか興味は尽きない。

 しかもゴールドマン攻めはまだ始まったばかり。上院常設調査小委員会のカール・レビン委員長(民主党、ミシガン州)は4月27日、ゴールドマン・サックスを含む投資銀行が金融危機に果たした役割を追及する公聴会を開く予定だ。ある議会幹部が本誌米国版に語ったところによると、レビンのスタッフはゴールドマン・サックスの「特定の人々と特定の行為を結びつける」新たな証拠資料を発見した。それも「ゴールドマンにとってもう1つの大きな爆弾」になる資料だという。

 レビンは上院民主党のなかで最も熱心な金融改革論者の一人。委員会の調査権限も強力だ。ドラマは来週、更なる盛り上がりを見せるかもしれない。

──編集部・千葉香代子

このブログの他の記事も読む


プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ウクライナ和平案の感謝祭前の合意に圧力 欧州は

ビジネス

FRB、近い将来の利下げなお可能 政策「やや引き締

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 6
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story