コラム

アレキサンダー・マックイーン急死の波紋

2010年02月15日(月)17時00分

 2月11日、イギリス人ファッションデザイナーのアレキサンダー・マックイーンがロンドンの自宅で遺体で発見されたというニュースはあまりにも突然で、ファッション業界には今も呆然とした雰囲気と喪失感が漂っている。

 マドンナやサラ・ジェシカ・パーカー、ジャネット・ジャクソンなど著名なセレブを始め、米ヴォーグ誌の編集長アナ・ウィンターなどファッション界の重鎮もマックイーンの死を惜しむコメントを次々と発表。彼のショーの常連で、自分のミュージックビデオでも彼が手がけた衣装を着ていたレディー・ガガも、追悼として彼と撮ったプライベート写真をツイッター上で公開した。

 ニューヨークで始まったばかりのファッションウイークでは、11日にマックイーンのセカンドライン「McQ」のショーが開かれる予定だったが、当日に訃報が届いて急きょキャンセルされた。3月にはパリのファッションウイークでファーストライン「アレキサンダー・マックイーン」の2010-11年秋冬コレクションが発表されることになっていたが、予定通り行われるかはまだ分からない。

 どちらのコレクションもマックイーン最後の作品群になることを考えると、何らかの形で発表してほしいと願うファンや業界人は多いだろう。

 一方、早くも一部では彼の後継者問題が懸念されている。これまでもシャネルからベルサーチまで、多くのファッションブランドが同じ問題を抱えてきた。カリスマデザイナーの名を冠するブランドは、デザイナー本人の強力な個性やビジョンなくしては成り立たない、いわば「分身」のような場合が多い。だからこそ「オンリーワン」の魅力があるのだが、裏を返せば代わりがきかない。

 とりわけ「ファッション界の反逆児」と呼ばれたマックイーンは、世界のトップデザイナーの中でも稀有な才能の持ち主だった。デザインやコンセプトは型破りで挑発的なのに、どこまでもエレガントで美しい服を次々と生み出して、業界人の度肝を抜いた。マックイーンの服には彼ならではの反骨精神や美意識、ロンドンの老舗テーラーでの下積み時代に培った一流の技術と職人魂がすべて込められていた。そんな彼の代わりを務められるデザイナーを探すのは至難の業だし、まだ40歳だったマックイーンには自ら育てた後継者もいなかった。

 今後どんな決断が下されるにせよ、彼が遺した「分身」には険しい道が待っている。

――編集部・佐伯直美

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story