コラム

iPhone不買運動、「日の出」を連想させるポスターの罵倒...中国政府「非公認の愛国」が暴走する理由

2024年03月11日(月)19時40分

「'愛国'はビジネスではない」

中国政府はこうした草の根ナショナリズムの全てを認めているわけではない。

iPhone売上が減少するきっかけになった「公務員の使用禁止」について、中国外交部はこれを否定した。

そればかりか、暴走した'愛国'に制裁が下されることもある。

南京のショッピングモールから赤い丸のロゴを外させたブイロガーは、国営放送CCTVのニュースで「有害な活動」と批判されただけでなく、過激な言動は収益化を目的としたビュー稼ぎと断定されて「'愛国'はビジネスではない」とも酷評された。

これは中国では社会的な封殺に近い。

それ以外にも、香港の住民を「犬」と呼んだブイロガーがWeiboのアカウントを凍結されたり、今年1月の能登半島地震を「日本への天罰」とSNSに書き込んだTVコメンテーターが番組出演を停止させられたりしたこともある。

中国の場合、これらの対応は個別の組織の独自の判断というより、共産党の意向が働いた結果とみた方がよい。

何が'愛国'かは党が決める

中国政府はこれまでナショナリズムを鼓舞し、コロナ禍でも「外国の責任」を強調した。その中国政府自身が草の根の過剰なナショナリズムを警戒するのは、一見すると矛盾したようにも映る。

しかし、習近平体制が先進国との対決を演出したり、強権的な統治を正当化したりするツールとして愛国やナショナリズムを用いているなら、そこに大きな矛盾はない。

習近平国家主席は昨年6月、「'愛国'の真髄は国とともに共産党や社会主義も愛すること」と述べた。ここからは中国政府がナショナリズムを、あくまで「共産党体制への奉仕」を大前提にしていることがうかがえる。

言い換えると、「何が'愛国'か」を判断するのは共産党ということだ。だから、いわば官製ナショナリズムをはみ出して勝手に'愛国'を叫ぶのが許されなくても不思議ではない。

実際、昨年11月に習近平がアメリカのバイデン大統領と会談して貿易問題を協議した後、CCTVをはじめ国営メディアは反米のトーンを急に弱め、右派コメンテーターやブイロガーの多くがそれに歩調を合わせた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story