コラム

ガザ人道危機をめぐる中国メディアの主張──「ウイグル自治区の方がずっとマシ」にどう答えるか

2024年03月07日(木)20時25分

もはや「先進国一択」の世界でないことは、曲がりなりにも現在の国際秩序のチャンピオンである先進国にとっては足場が揺らぐことを、逆にチャレンジャーである中国にとってはチャンスが広がることを、それぞれ意味する。

いわば「選ばれる立場」に立ったことの自覚が乏しいまま、先進国がこれまで通り説教くさく、そのうえダブルスタンダードまで増幅するなら、多くの国が「人権を理由にした内政干渉」を批判する中国と(好き嫌いに関係なく)それなりの関係を築いても不思議ではない。

いつ先進国から人権侵害の批判を浴びせられるかわからない点で、多くの新興国・途上国は共通するからだ。

イギリスが提案したウイグル問題に関する共同声明が国連で発表された前日、やはり国連で「人権の政治利用」に反対する72カ国の共同声明が発表された。

これは事実上、中国を擁護するもので、共同声明に名を連ねたのはほとんどが新興国・途上国だった。その数はイギリスの提案した共同声明に参加した国より20カ国以上多かった。

こういうと「新興国や途上国はしょせん人権の重要性を理解せず、カネ目当てに中国に擦り寄っているだけ」といった声も聞こえてくるようだが、先進国でそうした反応が広がれば、結局は中国の思うツボともいえる。自らのダブルスタンダードを顧みない上から目線ほどグローバル・サウスで嫌われるものはないのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

20240528issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国超長期国債が一転大幅安、深セン証取で売買一時中

ビジネス

4月のスーパー販売額は前年比0.4%増=日本チェー

ビジネス

午後3時のドルは横ばい156円後半、対ドル以外でも

ビジネス

日経平均は反発、米エヌビディア決算を好感 半導体株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 4

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    魔法の薬の「実験体」にされた子供たち...今も解決し…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story