コラム

「稼ぐテロ」が急増するアフリカ──食糧高騰、コロナ、温暖化...多重危機の悪循環

2023年03月06日(月)15時20分
対テロ作戦のための訓練を行うガーナ軍兵士

対テロ作戦のための訓練を行うガーナ軍兵士(2023年3月1日) Francis Kokoroko-REUTERS

<人々がテロ組織に加わるのは宗教的価値観が理由ではなく、稼げるから。まじめに働いても十分な稼ぎを得られない状態が、テロリストを増やす結果に>


・イスラーム過激派の問題は、先進国ではもはや忘れられた感すらあるが、アフリカでは最優先の安全保障上の脅威として浮上している。

・生活苦に拍車をかける食糧危機は、稼ぐことを目的にテロリストになる者を増やしてきた。

・しかし、「稼ぐテロ」の増加は食糧危機の結果であると同時に、その原因にもなっている。

アフリカは世界で最も生活が悪化しているが、それと同時に世界で最も忘れられやすい。押し寄せる生活苦を前に、今やアフリカではテロが「稼ぐ手段」として普及している。

忘れられた人道危機

ウクライナと違って国際的な関心をほとんど集めないが、アフリカでも世紀末的な人道危機が広がっている。イスラーム過激派によるテロが急速に活発化しているのだ。

米国防省系シンクタンク、アフリカ戦略研究センターによると、2019年段階で約3000件だったアフリカにおけるイスラーム過激派のテロは、2022年には8月までに6000件を超えた。

件数に比例するように、同じ時期の死者数は1万人から1万5000人に急増している。

mutsuji230306_africamap.jpg

従来、中東やアフガニスタンなどで目立ったイスラーム過激派のテロがアフリカで急速に広がる状況に、国連は昨年「世界のテロ犠牲者の約半数はアフリカ人」と発表した。

テロや犠牲者の多くは、マリを中心とするサヘル一帯、ナイジェリアやチャドなどチャド湖周辺、そしてソマリアに集中している。

このうちマリでは昨年6月、中部ティアラサグーの村で130人が一度に殺害された。

信仰熱心でないイスラーム過激派

ただし、こうした殺戮が宗教的「狂信者」によるものかは話が別だ。

国連開発計画(UNDP)は2月7日、アフリカのテロ組織に参加した経験のある2196人へのインタビューに基づく調査結果を発表した。

それによると、「なぜテロ組織に加わったか」という質問に対する「宗教的価値観」という回答は17%にとどまった。2017年に発表された前回調査では、同じ質問に対する回答は40%だった。

これを反映して「聖典コーランを自分で読んだことがない」回答者は全体の42%にものぼった一方、「コーランを'いつも'自分で読む」と回答したのは9%にとどまった。

つまり、アフリカではイスラーム過激派のメンバーでありながら、たいして信仰熱心でない者が目立つばかりか、それが増えつつあるのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナが米欧を戦争に巻き込む恐れ、プーチン氏側

ビジネス

商業用不動産、ユーロ圏金融システムの弱点=ECB金

ワールド

銃撃されたスロバキア首相、手術後の容体は安定も「非

ワールド

焦点:対中関税、貿易戦争につながらず 米中は冷めた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story