コラム

「ウクライナ侵攻は台湾海峡へ飛び火する」の矛盾──中国の気まずさとは

2022年02月26日(土)20時20分
プーチンと習近平

北京五輪に合わせて会談したプーチン(2月4日、北京) Sputnik/Aleksey Druzhinin/Kremlin via REUTERS


・「ウクライナ危機が台湾海峡に飛び火する」という説はよく聞くが、これには大きな矛盾がある。

・「現地の要請」に基づいて軍事侵攻するロシアの手法は中国の論理と一致しない。

・東西冷戦の教訓に照らせば、中ロの共通性にばかり着目するのは建設的ではない。

ロシアの侵攻が始まる前から「ウクライナ問題が台湾海峡に飛び火しかねない」という説はあちこちで聞いたが、中国とロシアをとにかくセットで扱う思考は状況認識をかえって誤らせかねない。

中国にとってのウクライナ危機

ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した2月24日、中国の王毅外相はロシアのラブロフ外相との電話会談で「やむを得ず必要な措置をとった」というロシアの言い分に「安全保障上の懸念を理解する」と応じた。これが「西側に対抗する中ロ同盟」のイメージを強めたことは不思議でない。

ウクライナ侵攻の前から中ロは頻繁に接触していた。習近平国家主席は2月初旬、プーチン大統領との会談で「欧米の軍事的圧力」に反対することで一致し、共同声明では「欧米との協議でロシアが提案する長期的な安全保障を中国は理解し、支持する」と盛り込まれた。

また、欧米や日本の対ロシア経済制裁に対して、中国は「制裁は解決にならない」と加わっていない。

その見返りのように、習近平とプーチンの共同声明では「一つの中国」の原則が再確認され、これが中国のナショナリストを喜ばせた。中国国営新華社通信の上級編集員によれば、「中国はロシアを支持しなければならない...将来、中国は台湾の問題でアメリカと渡り合うときにロシアの支持を必要とする」。

一方、その裏返しで海外では「ロシアのウクライナ侵攻を中国が認め、中国の台湾侵攻をロシアが認める」という危機感が増幅した。台湾の蔡英文総統は23日、ウクライナ危機をきっかけに中国が軍事行動を起こしかねないと強調しており、イギリスのジョンソン首相なども同様の警戒感を示している。

ウクライナと台湾は違う

しかし、ウクライナと台湾を同列に扱うことはできない。また、中国とロシアが「反西側」で一致していることは間違いないが、両者を一枚岩と捉えることもできない。

最大の理由は、ロシアによるクリミア半島の編入(2014)や今回のウクライナ侵攻を認めることが、中国にとって具合が悪いからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱電、25年度のパワー半導体売上高目標を2600

ビジネス

韓国サムスン電子労組、来週初のスト実施を警告 賃上

ビジネス

消費者態度指数5月は2.1ポイント低下、判断「足踏

ビジネス

IMF、24・25年中国GDP予想を上方修正 堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 10

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story