コラム

入管法改正案の最大の問題は「事実上の移民政策であること」ではなく、政府がそれを認めないことだ

2018年11月06日(火)15時00分

群馬県太田市の工場に出勤する外国人労働者(2015年4月24日) Yuya Shino-REUTERS

11月2日、政府は出入国管理法の改正案を閣議決定し、条件によっては永住権の取得に道を開く外国人の単純労働者の受け入れを認めたが、今回の決定の最大の問題は事実上移民の受け入れに舵を切ったことではなく、「労働力の受け入れであり移民政策ではない」とタテマエで実態を覆い隠そうとする政府の姿勢そのものにある

「移民政策ではない」

今回の入管法改正に関して安倍首相は「深刻な人手不足に対応するため、即戦力を期限付きで受け入れる」と重要性を強調しているが、野党から「そもそも人手不足がどの程度あるのか不明確」、「人数の上限が定められていない」といった批判が出ているだけでなく、自民党や保守派からも批判が噴出している。後者の批判は主に「事実上の移民政策ではないか」に集中している。

これに対して、首相は「いわゆる移民政策ではない」と力説しているが、今回の決定が外国人定住者を増やす方針に転じたものであることは間違いない

今回の入管法改正の閣議決定では、これまで法的に制限されていた農業や建設業をはじめ14業種での受け入れが検討されている。

これまで「単純労働者としての外国人は受け入れない」という方針だったことからすれば、これだけでも大きな変化だが、さらに重要なことは「一時滞在ではない外国人労働者」を増やす点だ。

今回の決定では新たな在留資格として、「相当程度の知識または経験を要する技能」をもつ特定技能1号と、これを上回る「熟練した技能」をもつ特定技能2号の2段階を導入しており、滞在期間にも差が設けられている。1号の滞在期間は最長で通算5年、家族同伴を認められないのに対して、2号の滞在期間に上限はなく、家族同伴も認められる。

このうち、2号の場合、10年滞在すれば永住権の取得要件の一つを満たすことになる。

薄弱な論理

国際移住機関(IOM)によると、「移民(migration)」とは「本人の(1)法的地位、(2)移動が自発的か非自発的か、(3)移動の理由、(4)滞在期間に関わらず、本来の居住国を離れて、国境を超えた、あるいは一国内で移動している、あるいは移動した、あらゆる人」を指す。この基準に照らせば、今回の入管法改正で想定される外国人労働者は立派な「移民」である。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story