コラム

カタルーニャ州首相の信任投票が延期された本当の理由

2018年02月07日(水)19時55分

morimoto180207-4.jpg

Photograph by Toru Morimoto

プッチダモン本人は、盗み見されたメッセージが自ら発信したものであるかについて、否定はしていない。信任投票延期の理由は、彼が州首相就任を断念したからとも考えられる。

ところが、報道後に更新された彼のツイートでは、プライバシー侵害を非難し、「私は人間であり、私にも疑ってしまうときもある。しかし同時に、私は首相であり、(私を選んだ市民と国への)尊敬と感謝、そして市民と国と交わした約束のために、小さくなることも後退することもしない。立ち止まらずに進もう! 」と述べている。

群衆が政治家に頼らずに事態を打開しようと...

結局のところ、プッチダモンが率いる独立国家「カタルーニャ共和国」はこのまま終焉を迎えるのか。

信任投票延期の4日後、ERCの議員が、プッチダモンを首相とするブリュッセルの「象徴的政府」と、プッチダモンの代理首相の率いるカタルーニャの「実務的政府」の2つの政府を樹立する案を、プッチダモンに提案するためにブリュッセルに飛んだ。

一方、信任投票の過半数確保のために議員辞職した、プッチダモンが率いる政党「カタルーニャのための団結(ジュンツ・パル・カタルーニャ)」の亡命中の元議員は、「スペインに免許をもらった政府」を樹立するくらいなら再選挙するべきだと、ERCの案とは噛み合わない主張をしている。

選挙結果を認めないスペイン政府、選挙で過半数を獲得しながら未だに州首相を選出できないカタルーニャの政治家たち――政治的混迷を悪化させるばかりの両者に対して、独立運動を支持する市民の我慢は限界に達しかけている。

これまで独立派デモは、2つの市民グループ(両グループのリーダーは投獄中)が、完全に群衆をコントロールしてきた。

しかし、信任投票日のデモでは、デモを主催した市民グループがデモ終了と解散を訴えたが、それでは収まらなかった。行き場のないフラストレーションが募った群衆の一部が、もう1つの新興市民グループの「州議事堂へ!」の声に応えて、州警察によって封鎖されている州議事堂前の公園へ強行侵入し、州警察と小競り合いを起こした。

私は2004年にバルセロナに拠点を移して以来、カタルーニャ独立派のデモを多く取材してきたが、群衆がデモ開催者の「解散命令」に従わなかったのは今回が初めてだ。ここへ来て、潮目が変わったように思える。政治家に頼らず、ストリートの市民の行動で事態を打開しようとする動きが生まれつつある。

スペイン側、カタルーニャ側双方の政治家たちは、昨年10月の独立を問う住民投票の際、スペイン警察の妨害に屈せず投票所に並んだ市民たちを侮らないほうがいいだろう。民主主義を掲げる国家では、最終的には政府が民に従うことになるのだから。

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、24・25年中国GDP予想を上方修正 堅調

ワールド

ごみ・汚物風船が韓国に飛来、「北朝鮮が散布」と非難

ワールド

中国軍事演習、開戦ではなく威嚇が目的 台湾当局が分

ビジネス

自民の財政規律派が「骨太」提言案、円の信認と金利上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story