コラム

「カタルーニャ語が第一言語」と「独立賛成派」どちらが多いか

2017年12月01日(金)21時27分

「フランコはまだ生きている」が意味するもの

2013年のカタルーニャ州政府の調査によると、州内の15歳以上の住民のうち、自分の第一言語をカタルーニャ語だと考える人は31%、スペイン語は55%だった。2008年の調査からはそれぞれ1%以下の変化であるため、この割合は現在もさほど変わっていないだろう。

一方、12月21日に行われるカタルーニャの地方選挙――実質はカタルーニャ独立の是非を問う選挙――の世論調査では、11月26日の時点で、独立賛成派の党に投票すると答えた人は46%となっている。31%のカタルーニャ語が第一言語の人々は、言語を社会的結束の要として捉え、独立賛成派の中心的存在だが、実はスペイン語が第一言語の熱心な賛成派が存在する。

それは先述の「もうひとつのカタルーニャ人」ではなく、フランコ独裁政権下のスペイン語教育のみを受けた世代だ。彼らは元来のカタルーニャ人だが、カタルーニャ語を話せても、読み書き能力がスペイン語に比べて低い人が多く、自らの言語を剥奪されてしまった人々である。

例えば、1975年のフランコ政権崩壊時に19~23歳で、現在61~65歳の人たちは、カタルーニャ語が書けるのはたったの30%強で、話せるのは67%。さらに上の世代はスペイン語への依存度がより高く、フランコ政権崩壊時に59歳以上だった人たちの間では、カタルーニャ語が書けるのは22%まで落ちる。

しかし、約40年間の弾圧で言語を奪い、スペインへ同化させようと図ったが、彼らのカタルーニャ人としての真のアイデンティティーまでは同化できなかった。そしてフランコ独裁政権は、カタルーニャに言語とアイデンティティーのねじれを残した。

カタルーニャではよく「フランコはまだ生きている」と言う。それは、フランコの思想を受け継ぐ政治家が残るスペイン政府への揶揄だけでなく、彼がカタルーニャに残したものが、なおも社会に影響を及ぼしているからだ。

スペイン中央政府は、「独立派がカタルーニャを分断した」と非難するが、この地を本当に分断したのは、つい40年ほど前まで続いていたフランコ独裁政権ではないか。

独立運動が高まる中、人々はフランコの亡霊と必死に闘っている。カタルーニャからその亡霊を消し去った時が、本当の独立なのかもしれない。

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プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

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