コラム

失踪した夫を待つ2人の女 映画『千夜、一夜』に見る理不尽と不条理

2022年10月06日(木)15時00分

登場人物の中で唯一、明確な言葉と心情を持つ春男は、その明確さ故に踏み越えたレールから再び元に戻る。ラストの登美子と春男の海のシーンはすごい。カメラは山崎裕。そして監督は久保田直。長くドキュメンタリーを本籍としてきた2人に、脚本の青木研次が接合する。

葬式の場でいきなり演奏される佐渡おけさ。今どき懐かしいカセットテープレコーダー。2人の女性を支援する元町長が介護する妻との日常。そうした小さな要素が効いている。映画は言葉ではない。言葉に頼らないから映画なのだ。

magmori220929_senya2.jpg『千夜、一夜』(10月7日公開)
©2022 映画『千夜、一夜』製作委員会
監督/久保田直
出演/田中裕子、尾野真千子、安藤政信、ダンカン

<本誌2022年9月27日号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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