クズは人の基本型? 姑息で卑小な人間を『競輪上人行状記』は否定しない
だから観ながら思う。クズは人の基本型かもしれないと。あるいはアーキタイプ。要するに仏教でいえば凡夫。寺内が帰依した浄土宗の宗祖である法然は、(自身も含めて)凡夫こそ救われると説いている。この原作に、今村の持ち味である「聖と俗」のダイナミズムが重なる。
あるいは、人間だから堕ちるのだ、堕ちるべき道を正しく堕ち切ることが必要だ、と唱えた坂口安吾の『堕落論』を想起した人も、僕も含めて少なくないはずだ。
一人一人は姑息だ。卑劣ですらある。でも映画はそれを否定しない。むしろ肯定する。ラストの長いカットに、人間を肯定するテーマが集約されている。
『競輪上人行状記』(1963年)
監督/西村昭五郎
出演/小沢昭一、加藤 嘉、河合健二、南田洋子
<本誌2022年3月29日号掲載>
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