法からのぞく日本社会

国民投票か、間接民主制か? 理想の選挙制度を探して

2016年6月30日(木)16時51分
長嶺超輝(ライター)

選好投票制(優先順位式投票)

 一度の選挙で投票できるのは、ひとつの候補者、ひとつの政党に限られる。ただ、自分の考えと100%一致する候補者や政党など、まずありえない。実際の有権者の意思は、「この候補者の、この政策とこの政策は賛成できるけど、これは勘弁してほしい」など、モザイクのように賛否が入り組んでいるのが、ごく普通であろう。

 しかし、オーストラリアなどで導入されている「選好投票制」は、各候補者に優先順位を付けて投票するため、結果として当選者にも落選者にもまんべんなく影響力を及ぼす票をつくることができる。つまり、「死に票」が原理的に発生しないのである。

 ただし、集計作業が繁雑になるのが弱点だ。電子投票との組み合わせで、集計負担を緩和することができるだろう。

民主主義は民を幸福にすることができないのか

 筆者は今年、選挙や民主主義をテーマにしたライトノベル『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)を出版させていただき、おかげさまで幅広い年齢層の読者から好評を博している。

 その中で、着ぐるみパフォーマーとして活動しながら、主人公をサポートする19歳の男子が登場する。この男子には、とある身勝手な政治家のせいで、自分の家族が崩壊に追い込まれた過去があり、選挙や民主主義を全く信用していない。「いっそ、スーパーコンピュータが政治をやってくれたら、どんなにいいかと思うよ」(p.192)と、諦観混じりの望みをつぶやく場面がある。

 恥も外聞もない手前味噌で恐縮だが、この登場人物のセリフには、ひそかに問題提起を込めている。

 もし、人工知能のプログラミングで方針を決める政治が実現したら、理想的な「成長と分配」のバランスを正確に算出してみせるのかもしれない。その結果に満足する人もいれば、「コンピュータの言いなりではイヤだ」と、違和感をおぼえて納得できない人もいるはずだ。

 ナチスは民意が生み出した独裁政権だったし、「アラブの春」と呼ばれた民主化運動は、むしろ社会の混乱を深める結果をもたらしている。そして、先般のイギリス国民投票が決した「EU離脱」の結論......。

 人類にとっての理想の民主主義探しは、まだまだ続いていくのだろう。

*訂正(2016年7月6日): 「日本初の電子投票だった2003年の岐阜県可児市議選」は、日本初ではなかったため、「電子投票を導入した2003年の岐阜県可児市議選」に訂正しました。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

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